静心なくお金飛ぶらむ

オタクの現場備忘録。内容と語彙がない。

ヒモのはなし 2023.10.26-2023.10.29

10/26 『ヒモのはなし』@ささしまスタジオ

10/27 『ヒモのはなし』@ささしまスタジオ

10/28 『ヒモのはなし』昼公演・夜公演@ささしまスタジオ

10/29 『ヒモのはなし』昼公演・夜公演@ささしまスタジオ

 

 

 休演日が明け、ついに『ヒモのはなし』もラストスパート。おたくも全力で駆け抜けてきました!

 

※長いです。

 

 まずはざっと各日の感想から。

 休演日明けの26日は、トラザさんのお声が売り切れていて、どうして……!? となりました(本当にお疲れ様です)。あとこの回から明美との寸劇で学生に扮して「アケミサン!」と迫るところで、客席に突っ込んできて面白かったです明美にされたのですが、明美ではないので首を横に振りました)

 この日、明美とマリが初めて会話したところ、お二人ともとても声が硬く、値踏みしあっているような、警戒しあっているような空気があってハッとしました。その後「踊り、好きなの?」の辺りからふっと空気が緩和して、踊りを通して心が通じていくのがとても良かったです。

 あと2週目に入っていろいろなところに注目する余裕が出てきたのか、学生の傷付いている表情がしっかりと見えて印象的でした。

 この日は前日に急遽発表された通り、トラザさんと照明担当の丸さんによるアクショントークショーがありました! まさかの明美が丸さんに鞍替えし、シゲが明美を取り戻すため丸さんと戦うという(謎の)ストーリー。明美はシゲを捨てたりしないもん! とぷんぷんしながらも、久々にトラザさんがアクションをしておられる姿が見られて少し嬉しかったです。でも単純にお芝居の後にさらにお芝居を重ねるのはハードすぎるのと記憶力がぽんこつすぎるおたくの記憶がなくなってしまうのでご無理はなさらず……! と思いました。おたく、ゆるゆるアフタートークが好きです。

 呼び込みマイクで久保田さんが「名古屋一チケットを売る男、名古屋虎三郎!」「日本一動ける照明、丸山貢治!」と紹介していてちょっと笑いました。このアフイベの発表を受けてチケットが30枚売れたそうです……! 恐ろしや。

 トークショーには丸さんだけでなく音響をなさっていた真鍋さんもご出演だったため、代わりに桃さんが入ることに。照明を真っ暗にすることを覚えた桃さんが、「土曜の夜も空席が多いから何かやらないと」「桃さんも引っ張り出そう」と言われた瞬間すっと照明を落として大笑いしました。確かトラザさんが「桃太郎!!」と叫んでらしたのもちょっと面白かったです。

 

 27日は支配人に注目していました。月曜の優しさと悲しみに満ちていた支配人・シゲ・明美の関係が大好きで、またあれが観られたら良いな、と思っていたのですが、この回の支配人は荒々しさが出ていて、悲しみを振り切るくらい怒りとやるせなさがあってこれも好きでした。

 あとこの日、ずっと『ヒモのはなし』を観てきて初めて涙がぽろぽろ零れてしまったのが「レディ・サンフランシスコ」のシーン。私は舞台にものが降る景色が美しくて大好きなので、毎回紙幣を降らせるところで「ああ綺麗だなぁ」って眺めているし、真上から降ってくるので前方席が好きなのですが、この日新聞紙を降らせた後のシゲの表情がよく見たくて上手に入ったらお代わり新聞紙があってぶわっと涙が出ました。その時の表情もとても良くて大好きでした!

 

 28日からは昼夜二公演!

 毎公演毎公演反芻して、この時の感情はどうなのだろう、この時は何を考えているのだろう、と思いながら観ているので、回を重ねる毎に理解が深まってきていて、うるうるしちゃう回が増えているな、と感じた回でした。シゲのお声はもう売り切れてしまっているけれど、だからこその良さもあってやっぱりすべてが生の演劇って面白いなと思いました。

 人間の感情の機微にはちょっと疎い悲しきモンスターなのですが、幸運なことにみたものを美しいと思う情緒だけは持ち合わせているらしく、この回はマリと明美が最初に踊るシーンの、青い照明が付いた瞬間の光景の美しさで涙が出ました。

 ちまちま見比べ続けていた支配人は、23日が悲しみ100%、27日が怒り80%悲しみ20%、この日の夜公演が怒り50%悲しみ50%という感覚でした。この日のバランスがまた良く、永田さんの底なしのお芝居を実感しました。

 なおこの日は26日にちらっとお話されていた通り、アフターイベントが追加に。その名も「漢のストリップ」。男性陣が続々と半裸で登場するトンチキイベント、マイクを握った久保田さんが、「かつてつかさんは俺くらいになると裸にしなくてもストリップなんてできる! と仰いましたが、あえてそれを裏切る!」(うろ覚え)と高らかに宣言しておられて面白かったです。皆様予想通りのボディではありましたが、タンクトップをお召しのまま登場した永田さんがLDH脱ぎをされて歓声を上げてしまいました。あと「ほっそ!」と飛び出してしまったのはごめんなさいでした。トラザさんは、忍者隠密隊B.C.Aのワンマンライブだったかで双子のお兄様がタンクトップになっていた時も思ったのですが、あそこまで鍛え上げられているとヘルシーだな……という感想しか出てきませんでした。ついでに桃さんもタオル一枚でご登場だったのですが、桃さん、金のネックレスは外されていなかったため、絶妙なチャラさとクズっぽさがあってじわじわきました。劇場を出る際にお見送りしてくださった時にはちゃんと服を着てらして、早着替えの達人か……!? と衝撃を受けました。

 

 いよいよ楽日を迎えた29日。

 前楽は少しトラザさんのお声が復活していて、全力のこう表現したいのかな、を浴びることができて嬉しかったです! 千穐楽も、全力で愛を叫んでいて素敵でした。

 千穐楽でも、まだより良くしようと細かなところが変わっていたり、全体的に出し切る! という感覚があって大好きでした。

 カテコでは突然『ヒモのはなし2』の予告編が。本編から3年後、マリは『レディ・サンフランシスコ』のオーディションに合格し帰国! 客席がわあ! と沸き立ったのが好きでした。学生さんは見事検事になり、100%有罪にする男に。支配人は相変わらずでしたが、「一生つか作品一本で!」と仰っていて面白かったです。まことはみどりに一世一代の告白をするもあえなく玉砕……! シゲは明美を失い新聞紙の上を彷徨い歩いており、それを明美がずばっと斬り捨てるという、お祭り騒ぎに本編の記憶がかなり薄っすらしました。シゲ、丸さんに明美を奪われたままだったのでしょうか……。

 

 さて、初日の感想でも戯曲とにらめっこをしましたが、今回も振り返りでにらめっこしてみようと思います。戯曲はこちらを参照しています。

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 冒頭のシゲの「幸せにしてやるからよ!」からの明転で、まことがみどりに呼ばれた瞬間嬉しそうになるのが大好きでした。そのままOPに移るわけですが、ここの支配人の合いの手もだんだん増えていっていて面白かったです! 最後の方で増えていた「明美ちゃん、絶好調です!」が好きでした。

 前楽の前説で時間繋ぎに一発ギャグをすることになったトラザさんが、久保田さんに「切り替えてね!」と言われていたのにOPの紹介の際に一発ギャグのポーズを見せつけていたのがずるかったです。

 あとここ、まこととみどりがとても可愛くて毎回にこにこしました。

 

 冒頭のシーン。戯曲では、

シゲ:こんなとこ来ちゃいけないな。
直子:はい。
シゲ:父さんが目を光らせてたからよかったけど、こんなとこうろうろしていると補導されちゃうよ。父さんが、このストリップ小屋にいるの誰から聞いた?
直子:お母様に……

となっていますが、ここもかなり言い回しが変わっていて、トラザさんのシゲらしい台詞になっているのが好きでした。「補導されたらどうするんだ!」と言いながらも、明美に見付かったら、という心配も大きいような気がして、その焦りが良かったです。

 

シゲ:父さんな、お前の人生に対して何ひとつ有益なアドバイスをしてやれなかった。
直子:父さんはいないものと思ってます。
シゲ:バカ、聞けよ、冗談言おうとしたんだよ。英語はやめとけって。冗談言って、久しぶりに親子で笑い合おうと思ったんだよ。
直子:笑いなんて、ありませんでしたよ、お母様と私には。
シゲ:……母さんそっくりになったな。
直子:そっくりだと思います。このごろはお父様にも似てきたっておばあちゃんに言われました。
シゲ:バカ! 俺に似てどうするんだよ。
シゲ:全然似てないよ、俺とお前は似てない。いい加減にしないとお父様おこりますよ。
直子:似ますよ、親子ですから。

 ここ、「英語はやめとけって」が抜かれるだけでテンポがぐっと変わるので英断だったなと見返して改めて思いました。「笑いなんて~」の台詞の揺らぎにマリの六年分の思いが凝縮されているようで、毎回好きでした。

 

直子:誰か、お知り合いの方がいませんか。いると助かるんですけど。身元引受人とか、パスポートの切り替えのときなんかに。
シゲ:…………
直子:あ、すみません、甘えて……
シゲ:甘えてないよ。ふつうの親なら、知り合いのひとりやふたりいるもんだよ。~

 ここ、マリがシゲの手を取って慌てて離すのが、六年ぶりの親子が触れ合ったところかと思うと悲しいものがあるなと思います。あと「ふつうの親なら」というところ、いつも「そうなんだ……!?」と思って観ていました。

 その後の「知り合いなあ……ダチって言ったってポン引きとアル中ばっかりだし」という台詞で、いつもくすくすしてしまいます。

 

シゲ:辛い思いしてんだな。
直子:いえ。
シゲ:父さん、二、三日家に帰ったほうがいいか?
直子:えっ。
シゲ:文部省が調査に来る間だけでも……
直子:いいです、もう手続きもみんな済ませましたから。いいんです、こんなことでお父様の手をわずらわせるつもりはなかったんですけど、どうしても印鑑だけは必要なもんですから。

シゲ:印鑑だけのためにわざわざここまで来たのか?

直子:はい。
シゲ:やっぱり俺に似てるな。タチの悪さが。ハンコなんか三文判だっていいんじゃないのか? 印鑑だって勝手に押しゃあ。わざわざ持って来て、俺が押さなくたってよ。今度、母さんと三人で飯でも食いに行こう、子供の教育というものについてしっかり確認しあっておこう。

 このマリが言い訳をするように畳みかける台詞、戯曲ではもっと冷徹な印象だったのですが、フランさんの演じ方がその後の「ひと目だけお会いしておこうと思って」に通じて好きでした。

 マリの言葉を聞いてシゲがすっと冷たい顔になるところ、自分のようになってほしくないという現れだったのかもしれないなと思いました。

 

シゲ:……明日! そんな話あるか、よくわかったよ。おまえたちがどれだけ苦労してきたかが。おまえやり方きたないぞ。今日の明日って、そんな話あるかよ。オレだって、父親として手みやげの一つも持たせて……
直子:三年は帰って来ないつもりですから最後にひと目だけお会いしておこうと思って。
シゲ:ムチャ言うなよ、普通一年だろうが。三年とはどういうつもりだ。もうオレなんかと、親でもない、子でもないっていう意味か。
直子:たまには、お母様のところへも帰ってあげてくれませんか? 気丈夫な人ですけど、きっと、寂しいと思うんです。

 ここのシゲの声の裏返り方が、トラザさんの演じるシゲらしさを感じていいな、と思っていました。改めて引用して気が付きましたが、戯曲だとここまで一人称は「俺」だったのに、ここで急に「オレ」になるんですね。意図してか意図せずかは分かりませんが、面白いなと思いました。

 

 カマ刈りのシーンは、戯曲にはト書きでしか書かれていないのですが大好きなシーンの一つです。ここ、シゲがしっかりマリを守っているだけでなく、時々支配人のことも背中に庇っていて面白いなと思いました。最後のほう、支配人の膝の上にシゲが座っていたり支配人と手を繋いでいたりして、普段はそれなりに仲が良いのだろうなと思いました。ここの「踏みガマの責め苦」で使われていた「カマ」の文字、東名組の掛け軸タイプは名古屋組千穐楽の前説にて売られていましたが、名古屋組のチラシタイプも売って欲しかった……! と思いました。あのチラシ、スギドラッグと書いてあるように見えましたが真偽のほどは定かではありません。気になる。

 

直子:みました。
明美:何を?
直子:ストリップです。
明美:…………
シゲ:(明美に)ほら、特出しだよ。アッパッパーのビロビロだよ。それをよ、このお嬢様がな、ご覧になっちゃったんだよ。俺はヤバイかなと思ったんだけど、頭、抜群、お前と違うの。そんで、交換留学生ていうんで、シカゴへお渡りになるんだ。どっこい、文部省は、お父様のご職業はときたんだよ、で、お姫様を文部省の役人がつけてきたら、お父様はお前に引っ掛かってたわけだ。

 ここの台詞で「そんで」や「どっこい」「で」といった接続語を強調する言い方がとても心地良いリズムでお気に入りでした。「どっこい」と言いながら手を動かすジェスチャーも好きでした。

 ここ、明美は衝撃からの取り繕いで冷たさがあるのかなと思うのですが、マリはマリで明美の踊りへの憧れがありながらも父が家に帰って来ない原因との対峙で緊張感があるのだろうな、と分かるのが好きでした。

 

 この後、戯曲では「過保護なヒモだよ」と続く会話があるのですが、名古屋組はその辺りをばっさりカットして、シゲが客入れも手伝わずにカエル飛びでパチンコに行くのが面白かったです。

 

明美:マメなのよね、あいつ……。あんた、いくつ?
直子:十七です。
明美:あ、あたし、シゲさんと知り合ったの十七。おでこにニキビ。あたしいい薬知ってんだ、あとで教えてあげる……。あたし、どう? 合格?
直子:そんな……。安心しました。

 私も教えてほしい。切実に。……というのは置いておいて、十七って、明美にとって夢を諦めた年なんだろうなと思います。自分が挫折した年の少女がこの後夢を追いたいと告白してきた時、明美にとって自分の夢の続きのような気持ちになったのではないかなと思いました。

 

明美:あ、餞別あげなきゃ、外国行くんだから。
直子:いいんです。
明美:いや、これ汚い金じゃないの。あたし、こう見えてもOLやってた時の貯金二百万くらい持ってるから。そっちの金持ってってよ。
直子:…………
明美:そんな伝染してるストッキングはいてるんじゃない。おしゃれしたい年頃なのに。今日だってお金せびりに来たんじゃないの?
直子:…………
明美:あ、ごめん、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど。とにかく、この通帳持ってって。しつこいようだけど汚い金じゃないの。

 ここ、戯曲では引用の通りですが、名古屋組は「OLやってた時の~」が「あたしが身体張って稼いだ」になっていて、はじめは驚きました。明美にとっては身体を張って稼ぐのも、「汚い金」ではないのか、と思うと、すっと腑に落ちた気がしました。

 

直子:そのお金をもらうと、母が可哀想ですから。

 この台詞だけだと分かりにくいのですが、戯曲に母の人物像として「どんなに生活が苦しくても、一度も実家に援助をたのんだことがないような人なのだ」と書かれていてなるほど、と思いました。マリは明美からの好意を受け取るわけにはいかないなら、なぜ小屋まで来たのだろう、と考えると、結局「ひと目だけお会いしておこう」というのもあながち嘘ではなかったのかも……。

 

明美:さっ、出だからあたし行くよ。
直子:あの……
明美:そりゃあ、シゲさんは私にとって大事な人なんだから、せんべい布団なんかにゃ寝せられないよ。あの人年だし、身体だってそう丈夫じゃないんだから。
直子:いえ、踊り、見てってもいいですか?
明美:踊り、好きなの?

 ここの改変も好きでした。明美、「あんたには悪いけど、シゲさんはあたしにとって大事な人なんだ」しか言わないんですよね。この台詞、涙を堪えているような時もあってぐっと来ました。

 「踊り、好きなの?」で明美からマリへの硬さがふっと和らぐのも好きでした。

 

明美:女の子だって言ってたから、きっとあんたに似てたんだろうね、一応、親子だから。生まれてれば、三つになるんだよね。
直子:まさか、父が……
明美:いえ流産しちゃったの、五か月の時、盲腸になっちゃってね、あるんだよね、そういうこと。(後略)

 ここ、「流産しちゃったの」を聞いたマリがはらはらと涙を零していたのがとても綺麗で、マリの素直さが愛おしくなりました。明美のマリに生まれられなかった娘の影を探すような話し方も大好きでした。

 

明美:あの……ショービジネスっていうんだよね、アメリカは。ブロードウェイなんだよね。
直子:(顔が輝いて)ミュージカルお好きですか?
明美:(まっ赤になって)わーっ、あたしはミュージカルじゃなくてストリップだから、脱ぎゃいいんだから。

 このくだり、明美の少女性が一気に顔を出すのが大好きです。同じ話題で盛り上がる二人が、同年代の親友ように見えるのが素敵でした。この後、「応用するったって~」からの台詞の後ろで踊っているマリを見て「あなた踊れるの」という明美の表情も優しくて好きでした。

 「まっ」と驚くマリに対して手を口に当てて驚くのが可愛いと言う台詞は戯曲にないのですが、小説の『ストリッパー物語』に出ていて、これか! と衝撃でした。この会話大好きなので、今回追加してくださってありがとうございます。

 「一緒に踊ろうか」の台詞で踊り始めるところ、明美の踊りがとても素敵で、ずっと見惚れていました。この後ダンサーを目指そうとするマリにとって、明美はとても良い目標になったのではないかな、と思います。

 文通のシーン、戯曲ではトゥシューズを贈っていないのですが、明美がずっとトゥシューズを保管していたうえ、使える状態だというところがいいな、と思います。

 

 「明美ちゃん、何やってるの!」と支配人が駆け込んできてからの長台詞、しっかり永田さんの言葉になっていて良かったなと思います。長すぎるので引用は割愛しますが、歌を交えたり観客に賄賂(お菓子)を握らせたりしながらぐっと語りに引き込む腕前、本当にお見事でした。

 「I never fall in love again」の明美の踊りは、本当にセクシーで、実際には何も脱いでいないのに動きが見えるのが大好きでした。あの踊りだけで4200円の価値があります。明美というか廣瀬さんって一目で人を虜にする魔力があると思います。好きです。

 

学生:ブラジャーなんか取ったりして不潔だ! 早く着て下さいよ。そうじしなきゃいけないんだから。
明美:背中のジッパー、お願い。

 踊りを中断させる暗転からの明転のあとの明美と学生の会話はこの「お願い」の言い方のバリエーションが好きでした。時々とても婀娜っぽい時があってどきどきしました……!

 

明美:こわいね、あんた。
学生:男はこわがられるくらいがちょうどいいんです。なめられてなるもんですか。エヘン! どこに行くんです?

 この「エヘン!」が可愛いんですよね。織田さんは前説だと柔和な雰囲気がある方なのですが、このシーンはぷんぷんしていて好きでした。

 「コンセントが抜けて~」の台詞で学生が指を鳴らすのに合わせて明美が真似をしていたのも可愛かったです。

 

明美:……せっかく慣れてきたのに、もう夏休みも終わっちゃうのね。私、好きなんだ。あんたが駅から菜の花畑の中「今年も来ました。また働かせて下さぁい」走って来るのよね。女嫌いのふりをして、あたしの気を引く悪いひと。一度も誘ってくれないんだもん。ルリ子とは別れたの?
学生:あんな人、関係ありませんよ。
明美:今朝だって二人で出かけてたじゃない。何してたのよ。言ってごらんなさいよ。
学生:ですから、あなたにあてつけたんですよ、分からないんですか。
明美:どうもあんたのはまどろっこしいんだよね。
学生:何がまどろっこしいんですか、恋のイロハですよ。
明美:あら、首にキスマーク。言っちゃお。みんなに言っちゃお。

 この会話、ハイテンポで進んでいくのですが、その中でもころころと明美の表情が変わっていって面白いなと思いました。

 

学生:どこにキスマークがあるんです。どこです。そういうことばかりあなたは言って。

明美:ありません。もう、しつこいんだから、ありませんよ、ちょっと嘘をこいたんです。嘘々。

 ここ、2週目くらいから嘘を広めようと出ていく素振りをする明美の腕を学生が掴んで引き止める演出が加わって、学生は明美のことを引き止められるのか、とハッとしました。この後明美が学生の手を掴んで引き止められないのを含めて好きな演出でした。

 

明美:……。そう、もう四年たったのね。もう来ないのね。忙しくなるんだ。司法試験頑張ってね。あんたなら大丈夫よ。社会人になっちゃうのか。社会人になったらこんなとこ来れないもんね。社会人になっても冷たくしないでね。

学生:あいさつくらいしてあげます。

明美:ダメダメダメ、あたしドギマギしちゃうから。それにあたしみたいな知り合いがいるとあんたに迷惑かかるから。

 この「ダメダメ」の言い方が日によって硬さと明るさが違っていて、今日はどんな言い方をするのかな、と毎回楽しみでした。突き刺すような言い方が一番明美らしくて好きでした。

 

学生:山陰を回るようなことがあったら、僕の田舎の鳥取へ寄って下さい。

明美:またこれだ。

学生:この仕事やめてもらうわけにはいきませんか。

明美:……そう言われて、三回やめてんの。

 ここからの明美の語り、毎回感情の揺らぎが大好きでした。"花嫁のもだえ"を歌いながら涙を堪える姿が苦しかったです。

 一回目は相手の男性の裏切り、二回目は事故のようなものだと思うので、帰ってきてしまうのも仕方がないのですが、三回目はどうして脱いでしまったのだろう、と考えていました。三回目は自分で捨てているんですよね。「普通の生活」が手に入るところだったのに、土壇場で怖くなってしまったのかもしれない。このまま学生と一緒に行っても、きっと明美はシゲのところに戻ってきてしまうのだろうな、と思いました。

 

明美:私が帰ってくるたびいつも待っててくれるの、シゲさんは。線路のむこうの麦畑でかかしの格好して、シゲさんニコニコ笑ってんのよ。あたし荷物かなぐり捨てて、あんたあー。麦畑の中ごろごろ抱き合ってころがったのが、あのシゲさん。雨のざあざあ降る時に、小屋の前まで帰ってきて荷物こんなにたくさん持って、ああ、もう死んじゃおうかなあと思った時に戸をガラッとあけて、何だこのやろう、やっぱり俺の体が忘れられないか。ハハハお前は俺から離れられないんだよ。水たまりの中、ゴロゴロ抱き合ったのが、シゲさん。「またいい時もあるさ」って力づけてくれるのが、シゲさん、受けとめる時は、受けとめてくれるの。

学生:明美さんはやっぱり、シゲさんのことが好きなんですね。愛してるんですよ。その気持を大切にした方がいいと思うな、僕は。

明美:いい年した男と女がホレたハレたじゃないんじゃない。ガッツじゃないの。ガッツでどこまでふんばるかじゃないの。ふみとどまるかじゃないの。

 そらあそうよ! と、戯曲を読んで叫んでからずっと、心の中でそらあそうよ!! と叫んでいます。にこにこ笑って立ってらっしゃるシゲさん、想像しただけで眩しすぎるんですもの。そらあそうよ。

 というのは置いておいて、「いい年した男と女が~」という『ヒモのはなし』のテーマがここで出てきたの、面白いなと思います。シゲと明美のシーンではなくて明美と学生のシーンで出てくるのが興味深いです。

 

学生:なんかほっとしました。

明美:あんたすぐ傷ついちゃうのね。傷つくの上手ね。それだけが取り柄ね。おまえは俺の体が忘れられない女になったのサ。言えるかね、あんた。ウソでもいいから。おまえは俺の体が忘れられない女になったのサ。言えるかね。

学生:言えませんよ。社会人ですから。

 ここ、明美も学生もそれぞれに傷付いた顔をしていたのが辛く感じました。「社会人ですから」という返答、リアルではなく舞台っぽい言い回しだったのが何とはなしに好きでした。こんな返し、自分で文章を書くとしても思いつかないよな……。

 

学生:靴のヒモがほどけてますよ。結んであげましょう。

 この台詞の後明美が学生の肩に足を掛けるところ、絶対に「TRUMP」シリーズだったし、イニシアチブ取ってた。何回でも言います。絶対そうだ(違います)。ここ、ついさっきまで明美にキスをしようとしていた学生が、迫ってくる明美を拒否するのがとても辛かったです。

 

 この後の学生の「踊り、頑張ってくださいね」という台詞、どこかで読んだ気がしたのですが見つかりませんでした。気のせいだったかもしれない。この台詞で明美が学生を突き飛ばす演出も途中で増えていたのが好きでした。

 初日の感想でも書いたのですが、明美は学生のことを「織田ちゃん」と呼ぶのに対し、シゲは学生のことを「学生さん」と呼ぶ対比が親密度を如実に示していていいなと思います。

 

シゲ:せっかく俺は航空券まで買ってきたのに、(後略)

 から始まる一連のシーン、明美が「パッ」だの「タイヤが萎んでんの」だの「ワッセ、ワッセ」だの、シゲさんが熱くヒモ道を語っている間いろいろなことをしている明美が大好きでした。

 シゲがすっと絵葉書を取り出して見せる時も明美は呆れたような顔をしていて、やっぱり明美はマリとやり取りをしているから分かるのかな、と思いました。「成田発ったのおとといだよ」とぴしゃりというとシゲが固まるところが大好きで毎回けらけら笑ってしまいました。

 

シゲ:お前、子供産んだことないから分かんないんだよ。

明美:…………

シゲ:なんだ、その目は。

 「なんだ、その目は」じゃな~い! それは言ってはいけないことだよ! と毎回ぷんぷんして観ていました。

 

シゲ:お前、まさか俺に惚れてるんじゃないだろうな。

明美:惚れてるよ。

明美:もう、年だしね。

シゲ:まだまだ。

明美:他に行くとこないんだよね、私。

シゲ:そりゃなしだよ。そりゃないよ、明美、長い人生寄り添い、助け合い、いたわり合って生きていこうなんてオレ達、ナシだよ。(後略)

 ここ、考えても考えても理解ができなくて、未だに考え続けています。何でナシなんだろう。でも、シゲにとって結婚って永遠ではないから、さもありなんなのかもしれない。人間の恋愛は難しいです。「お前がアッパッパーのベロベロで、オレがフーラフラのゴロゴロだから」マリは頑張れたという考えも面白いなと思いました。本当にそうなのかな。シゲの考え方って、極端なところがあると思っていて、これもその極端な考え方の一端のような気もします。

 

シゲ:(前略)なぜシカゴは雪なんだ、なぜ、俺の娘は、直子は胸まで雪につかってるんだ。

 このシゲの台詞の時、堪えるような顔をしていた明美が、シゲに「おまえ何か知ってるのか」と問われても答えずに、無理やりでも明るく「さ、踊ってくるか!」というのが大好きでした。まだシゲには言えないんだなあ、と分かったシーンでした。

 

 この後のシゲらと入れ替わりで入ってくるまこと・みどりのシーン、一気に楽しくなるのが好きでした。言ってしまえば雑なみどりのストリップでドギマギしているまことが可愛かったです。

 

支配人:だから、その腎臓は激しい踊りしちゃいけないって医者から言われなかったか。俺はもう診断書見せてもらったんだよ。(心やさしい支配人なのである)
みどり:頼みます、使って下さい。踊らせて下さい。

 支配人、戯曲で「心やさしい」と書かれているのが可愛い。「診断書見せてもらったんだよ」と言われて、「ありがとうございます!」とみどりが返事していたのも、きっと支配人の優しさを理解しているからなのだろうなと思いました。また、このシーンで支配人が「それにもう三か月……」と言いかけているのが気になっていたのですが、千穐楽前日の夜中に小説の『ストリッパー物語』を駆け足で読んだところみどりが支配人に妊娠していることを黙ってもらっているようで、なるほどな、と思いました。

 最後の方で「そもそもまな板ショウって何かわかってるの」「わからない!」という会話が増えていたことで、みどりのもの知らずな面が際立っていて好きでした。

 

支配人:食えなきゃ、まことが働けばいいじゃないの。
みどり:無茶苦茶言わないで下さい。まこと働かせるなんて、あたしそんなのいやです。あたし、死ぬまで脱ぐんです。舞台の上で裸で死にたいんです。
支配人:(支配人、目頭を押さえる)聞かせてやりたいね。今の言葉をアバズレどもに。でもみどりちゃん、まことだって今の言葉聞けば働くよ。

 このシーン、まことの台詞は一切無いのですが、ずっとハーモニカで盛り上げたり相槌を打ったりしているのが毎回大好きでした。分が悪くなるとハーモニカを吹きながら逃げようとしていくところで笑いが起きるのも良いなあと思っていました。

 この後の支配人の台詞の中で啖呵を切るみどりも格好良かったです!

 

明美:私は汚れた女よ。
シゲ:待て、明美さん。待って下さい。
明美:もう私にかまわないで。私は汚れた女よ。あなたは立派な検事さんになって。

 この茶番劇、この記事の上の方でも書きましたが、突然シゲが観客を明美と間違える演出が増えて驚きました。第四の壁を突然ぶち壊され推しが3Dになる感覚、とても面白かったです。

 あとここ、支配人が後ろでやれやれ、といった風に笑っていたのが支配人の優しさや人柄が出ていて好きでした。スリッパで頭を叩くのはトラザさんの得意技ですが、トラザさんに対して永田さんがやるのも面白かったです。

 この後の小道具をシゲにすべて片付けさせるところ、千穐楽だけ明美の手拭いをキャッチできなかったのが悔しかった……! 下手から上手に戻しにいくところのシゲの表情が割とシゲというよりトラザさんだったのも好きでした。あの作画、ぼのぼのくんだったかもしれない。

 

シゲ:(前略)一発ここで腰の動かし方指導して下さいよ。みんな支配人が教えたっていうじゃないですか。よっ、色男、赤くなっちゃって、もう。(支配人のきちんと整った髪をなで回す)
支配人:シゲさん、髪だけさわるな、セットに二時間かかるんだ。

シゲ:このストリップ小屋、ほんとに踊りやすいですよね。(後略)

 ここから支配人を上げて前田を下げるくだり、いちいちのジェスチャーが面白くて大好きでした。「志ってもんがまるっきりないんですもんね」と言いながら虚空に「志」を書いて見せるシゲさんがお気に入りです。

 

明美:そこが支配人の謙虚なところよ。腕なんかきれいだもんね。シミひとつなくて。もりもりのムキムキだもん。

 この台詞、はじめは何も思っていなかったのですが、途中からふと「支配人が薬物をやっていない」ということなのかな、と思って気になりました。有識者に確認したところ、1980年代半ばから「第二次覚せい剤乱用期」とのことで、薬物とヤクザの結びつきが強かったそう。確か小説版では支配人がヤクザだったので、これを聞いてなるほどな、と思いました。

 

支配人:ああいう性格だから誤解されちゃったりするんじゃないの。
明美:あれ? ご存知? あの前田のバカよ。

 ここ、永田さんが「飛ぶのよ、おカマは。おカマは寝ないのよ!」というのが面白すぎるのですが、永田さんの言葉に合わせてBGM担当ハーモニカの河本さんもぴょんと飛ぶのが面白くて全戦全敗でした。戯曲では「八戸から群馬まで穴掘って、ひと月おきに通ってんだよ」となっているのに、「昼は八戸、夜は群馬よ」って更にハードにしちゃうの、大好きです。

 

支配人:(前略)何に使ってるの、あんなもの。
シゲ:誰が言ったんです、あ。
支配人:誰だっていいじゃない。俺、帳面つけてキチッキチッとやってんだからさ。
シゲ:誰がおカマに密告したかって聞いてんだよ。

 この辺りから高めでキープされていた温度感がグッと冷えてくるのが大好きです。一気に不穏な空気にする力量がお見事で、表現の力は凄いなと思いました。

 

明美:すみません。弁償しますから。
支配人:いや‼! それがいやなんだよ、それが。弁償とかそういうことじゃないんだよ。シートの端が切れてて、真四角のはずのシートが四角くないのよ。俺、きれい好きなの、キチッと四角でないとね。帳面の最後がキチッキチッとゼロにならなくなっちゃうのよ。

 この台詞の永田さんの勢いが大好きで、毎回楽しみにしていました。気持ちは分かる。

 戯曲とは少し変更されているので、シゲの「何が言いたいんですか」からそのまま「もう少し優しくしてやった方がいいんじゃないの」に繋がるのも面白いなと思いました。

 

シゲ:明美、おまえ、学生と何があったんだ。約束でもあったのか、言ってくれなきゃ、困るじゃないか。
明美:えっ。支配人、お水です。
シゲ:何赤くなってんだ、学生はやさしかったのか。
明美:あんたの見てた通りだよ。
シゲ:このブローチももらったのか。大事そうにしてるもんな。学生にそんなに惚れてたのか、ついて行くなら、ついて行きゃいいじゃないか、まるで俺が引き止めたみたいに思われるじゃないか。行きたきゃ一緒に行きゃよかったのに。俺のメンツを考えてくれよ。
明美:バカなこと言わないでよ。

 この会話の時のシゲ、本当に嫌な言い方をしていて、人間臭さが好きでした。引き止めたように思われるのも、ヒモとして恥ずかしいんだろうな。シゲの言う「ヒモ道」、分かるようで理解しきれないのが面倒臭くて愛おしいなと思います。

 

支配人:シゲさん。顔役さんが明美ちゃんのこと、角のホテルで二時間ばかり待ってるんだ。ほら、約束したでしょ。頼む。
シゲ:ようがす。明美、ご指名だよ。
明美:あたし、行きたくない。
シゲ:何でだよ。どうしたんだ最近。俺に恥かかせるのか。(ひっぱたく)
明美:あたし、行かないからね、今日は。
シゲ:支配人、今日はちょっと勘弁してくれませんか。二度とこんなことないように、ちゃんと言いきかせときますから。

 ここ、顔役が待っていると聞いた時の明美の泣きそうに歪んだ眉が忘れられません。シゲの「ようがす」も、行かせたくないと思っていることは分かる言い方で、でもどうしようもないのでへらへらするしかない感じが好きだな~上手いな~と思って観ていました。

 

支配人:シゲさん、頼むよ。
シゲ:あんた支配人だろ。あんたがさばかなきゃ、だれがさばくんですか。
支配人:俺、頭さげるよ、頼むよ、この通り。

シゲ:何のためにオレらがカマ飼ってると思うんだよ。(頭を下げた支配人の頭をこづく)

 この頭をさげる支配人の対応、とても大人で、だから二軒も小屋を持てるのだろうなと思いました。支配人が頭を下げる顔はとても冷静なのですが、裏に怒りを秘めているような気がしていました。シゲに頭を小突かれて限界が来てしまうぎりぎりさが好きでした。

 

支配人:髪さわるなって言ったろ! 殺すぞ、コノヤロウ。髪だけはさわるな。(殴る) (後略)

シゲを狂ったように打ちすえる。

 ここの捲し立てるところ、日によってさまざまな色がありましたが、悲しみとやるせなさが怒りとして爆発してしまって、暴力という形でしか表現できなくなっている悲痛さが分かって好きでした。

 戯曲には「打ちすえる」とありますが名古屋組のシゲは完全に足蹴にされていたのもあって、どうしようもない突発的な感情という感じがしました。

 

明美明美ちゃん言っとくけど、シゲが引き受けたんだからね。俺はいやだって言ったんだ、こういうこと。
明美:あんた……。じゃ行くわ。セリーヌのバッグにさつま揚げとコロッケが入ってるから挟んで食べて。パチンコ行くんだったらまことと一緒に行くんだよ。今日酔っぱらいがいっぱい町に出てるからね。からまれるんじゃないよ。ぶたれそうになったらまこと前に出して、あんた逃げて来ちゃうんだよ。
シゲ:……帰って来いよ。
明美:ここしか帰って来る処ないもん。
シゲ:俺を捨てるんじゃねえぞ、なっ、待ってるからよ。よし、俺、ホテルまで行って顔役さんと話つけてくる。
明美:いやならいやって言ってくれればよかったじゃない。はなっから引き受けなければいいじゃない。あたし、あんたの言う通りやって来たよ。私だって十七だったんだよ。あんときだって雪だったよ。大雪だったよ、胸までつかる。一人で立ってたら寒くて凍え死にそうだったから、あんたといっしょになったんだよ。後悔なんかできないんだよ。

 このやりとり、ずっと悲しさが満ちていて苦しいシーンでした。支配人に対して、「分かっている」という風に明美が頷くところが大好きで、シゲのへらへらと引き受けてきてしまうどうしようもない面を理解しているのだろうなと思いました。それでも明美に「ここしか帰って来る処ないもん」と言わせてしまうシゲの魅力、やっぱり太宰治に通じるところがあると思います無頼派の文学が好きなのですぐ太宰だの織田だの安吾だの言います)

 「胸までつかる大雪」という表現は、物理的ではなく悲しみや精神的孤独の象徴でもあるのかな、とこのシーンを通じて思ったのですが、毎回ワードの出現箇所をピックアップしようとして忘れていましたね……。ざんねん。

 あと散々足蹴にされたシゲの「……帰って来いよ」の声の低さや掠れがとてもリアルで良かったです。

 

シゲ:いつものことだよ。舞台がはねたあと土地の県会議員とか顔役からお座敷がかかる。ほんでホテルまで送ってって、帰って来て、俺たちは小屋で何してるかっていうと何もしてないのね。(中略)そしてみじめそうに、後ろ向いて明美にニカッと笑ってやるんだ。ドブか何かあるとそこにわざとザブーン、落っこちてやる。(後略)

 この長台詞の前半のトーンがとても静かで、初日に衝撃を受けました。この一人語り、何度聞いてもトラザさんと信じ難い雰囲気で、また新しい引き出しを見つけたんだなあ、と思うシーンでした。日によって老成したように見えることもあれば、とても幼く見えることもあって面白かったです。

 

シゲ:(前略)そこで後ろから明美が「あんた‼」胸をさらけ出して飛んで来るの。「来たな」(中略)「何だよ、いっしょになるって」「籍入れて」(後略)

 「そこで後ろから~」から、一気に畳みかける長台詞後半戦。ここのシゲの声の張り方が聞き慣れた音で楽しくなります。シゲの語る話は大げさでめちゃくちゃですが、それを飲み込ませるパワーがあって好きです。

 あとこの辺りからBGMに使われているウッドベースがよく聞こえる曲が何という曲なのか気になる~! わかる方、教えてください。

 

シゲ:(前略)どういうたまかね、もうイビキかいてんの。何だか不憫になって抱きあげて部屋の隅っこに連れてってあげんの。(中略)こたえたんだろうね。父はこんな生活をしていて立派なヒモになれるんでしょうかって言われりゃ、俺一生懸命朝までもんであげるの。

 RCサクセション「スローバラード」と共に聞くシゲの語りの終わり。寝ている明美に対して甲斐甲斐しく世話をするシゲの眼差しがとても優しくて、恋愛というよりもっと深い家族愛に近いものがあるのかな、と思いました。

 あとこの「父はこんな生活をしていて~」というマリの台詞、シゲは聞いていないはずですよね。パチンコに行くふりをしてこっそり聞いていたのかな。

 このシゲの一人語り、友人に強請ったら絵を描いてくれて、ブログに引用していいとのお言葉をもらったので載せます。良すぎる。あの空気感をぎゅっと一目見てわかる形で残せるのは絵の特権だなと思います。

 

感想の引用許可ももらったので一緒にこちらも。

絵に描いたシーン
シゲさんが自分に呆れてそうで、情けなさそうで、それでいてちょっと照れてる感じ・惚気けてる感じが幸せそうにも見えて…
何通りにも見える複雑な表情、これこそ生身の人間がやってる演劇でしか見られないものだよなぁと思ったりしました👐

 嬉しい~! 初見でここまで響いて絵に起こしてくれるのも、感想を教えてくれるのも、本当に嬉しい。観劇の醍醐味です。

 

明美が、「あんた、あたしもたせらんなくて、客を舞台の上にあげてまな板ショウやっても気にしないでね。一番好きなのはあんたで、一番抱いてもらいたいのもあんたなんだからね。じっと見ててね」とつぶやいて去って行く。

 ここの台詞、「スローバラード」と支配人の声でかき消されてよく聞こえないのですが、「一番好きなのはあんたで、一番抱いてもらいたいのもあんたなんだからね」は高確率で聞き取れて、絶妙なバランスが良かったです。

 

みどり:シゲさん、あんた、もうまことを犬にして遊ぶのやめて。まことに対してちょっとひどいよ。こないだ公園で二、三人の子供に棒でつつかせてたでしょう。三歳の子供から棒でつつかれてんのよ。あたしの身にもなってよ。その前は動物園へ連れてって、象のオリの中へ入れて、もう少しで象に踏みつぶされそうになったでしょ。
シゲ:俺だって、ライオンのオリの中へ入って、こう、ガーッて口開けるライオンがバクッて、もう少しで喰われそうになったとこ見せてやったんだ。生きてんだからいいじゃねえか。

 待って。急展開で振り落とされそうになるシーンNo.1です。動物園のオリの中に……!? と思って調べてみたら、象のオリには割と入れそうでした。ライオンのオリはシゲの出まかせなのかな。何しろ動物園に行った記憶がほぼほぼないので、動物のオリがどういう形状なのかほぼ分からずにいます。

 そういえば明美が酔っぱらいに絡まれたらまことを前に出して逃げるように、と言っていましたが、シゲの方がまことより腕っぷしは強そうだな……とこのシーンで毎回思っていました。

 

シゲ:やめろ、おそろしいこと考えるのは。おととしよ、会社員になるって騒いで、朝、線路に寝てて始発止めちゃったじゃないか。国鉄は六億の損だって言ってたぞ。
みどり:こないだは、まことが一人で会社員になろうとしたからいけなかったんだよ。今度は銃後の守りがあるから。大丈夫なんだよ! 普通の生活するの。ちゃんと新聞とって、牛乳とって……
まこと:白い牛乳。
みどり:……コーヒー牛乳って言うかと思ってた。ステキッ! 新聞だってあんたが読んでるような、上の方に赤とか青の線が入った新聞じゃないんだ。
まこと:しっかりした新聞読むんだよね。
シゲ:まこと字なんか読めないじゃないか。
みどり:百聞は一見にしかずっていうんだよ。
シゲ:なに言ってんだ、読書百ぺん意自ずから通ずだろ。

 この会話、根本的なシゲの真っ当さが出ているように感じて好きでした。戯曲の「ストリッパー物語」を読むと、シゲって気象予報士だったのでやっぱりシゲってある程度教養があるのだろうな、と思いました。

 あと「赤とか青の線が入った新聞」が分からないままここまで来てしまったのですが、ふわっとスポーツ新聞とかではなくて朝日や毎日のような新聞を読むのだということだと思っています。実態が知りたい。どう調べたら分かるんだろう。

 

まこと:選挙にも行くんです。
シゲ:お前たち、選挙できんのかよ。
みどり:できるわよ。あたし達、誠心誠意なんだから、何年待たされても待つよ。
シゲ:選挙管理事務所って知ってるか?
みどり:……知ってるわよ。判コ押すところでしょ。
シゲ:くわえさせられるだろう。
みどり:当たり前じゃないの。選挙管理事務所だもの。くわえさせられるに決まってるじゃない。

 ここ「判コって何か知ってるか?」のくだりが入るのが面白くて毎回大笑いでした。千穐楽で再びラッコに出会えたの、めちゃめちゃ嬉しかったです!!

 

みどり:アカだって構やしないわよ。共産党だって殺される訳じゃないんだから。まこと一人は殺させやしないわよ。

 毎回ここで泣くかと思った。毎回『蟹工船』の表紙が頭を駆け抜けていったし、冬に観た舞台『文豪とアルケミスト』のプロレタリア組が喜んでいました。死なないだけでも良い時代になっている。

 

シゲ:どこの会社に行くんだ。
みどり:川崎……
シゲ:!?
みどり:……小岩……八王子……
シゲ:堂々と山の手線に入ってこいよ。本当は丸の内って言いたいくせに! ごまかしてやんの!

 「豊田!」じゃなくなったのは、会社の方の「トヨタ」だと大手だからかな。オチの「東岡崎!」で、グレート家康公「葵」武将隊のファンのフォロワーのツボをがっちり掴んでいて嬉しかったです。

 

シゲ:俺の顔見てどうするんだ。前見てろ、前。さり気なくな。これが俺たちのウイークポイントだからな。そんなに身を乗り出して景色見ちゃいけないんだ。おい、みどり、さり気なくしてるか?

 さり気なくできないみどりの表情、可愛い~! 頑張って堪えていたのですが、何回か「可愛い~!」が漏れた気がします。あまりにも可愛かったんです……。

 

シゲ:どうしたまこと、倒れろ倒れろ。
まこと:シゲさん、俺、神田でもどこでも降りますよ。爪はがされたって、耳そがれたって、みどりが殺される訳じゃないし、もし、誰かが殺されるなら、俺が殺されますよ。今、勇気出して降りてやらないと、稼いでやらないと……みどり今ならまだ子供が産めるっていうから……

 シゲさんに撃つ真似をしても倒れないまこと、めちゃくちゃ格好良い~! まことって、ここまで頭が良くなく、シゲにいじられる役どころとして描かれていたと思います。「まこと」ではなくて他の誰かとして舞台上に現れる時も、年齢より未成熟で知性的でないという立ち位置だったと思います。それが、ここで急にすっと等身大になるのが好きでした。これ、もしかして戯曲の「ストリッパー物語」のシカオのようなポジションだったのかな。シカオって正気だけど「バカ」の振りをしていたんですよね。このまこともそうだったのかもしれないな。

 

まこと:じいだっているし、三左衛門が何とかしてくれるよ。長い間お世話になりました、シゲさん。お近くへ来られましたらお寄り下さい。みどり、来いよ。心配しなくていいよ。こわがることないんだよ。俺はおまえを必要としている。それが人間として一番大事なことなんだよ。俺がおまえを愛おしく思い、おまえが俺を愛してくれていること、それが人間として、一番大事なことなんだよ。さあ、みどり、来いよ。

 この台詞、シゲにとって衝撃だったのだろうな、と表情を見て思いました。シゲがここでまことの言葉を聞いて何かに気が付いたような、愕然としているような、そんな表情を見せるのが興味深くて、その感情を読み解きたかったです。ここだけあと30回くらい観ないとちゃんと言葉にはできなさそう。

 

 まこと・みどりと入れ替わりに怪我をした明美が戻ってくるシーン。

明美:でも、どっか温泉街にでも行きゃやっていけるしね、ま、それがダメでも、ゲテモノストリップとかで、やれるんだから、心配しないで。あたし捨てないでね。
シゲ:バカなこと言うな。
明美:もし駄目だったら、あたし街に立ってでもあんた食わせていくからね。あんた、恥ずかしくないヒモになってね。これからは生理のナプキンも替えてもらうから、腹すえたからあたしを捨てないでね。

 ここの明美の表情、本当に覚悟を決めた顔で好きでした。

 シゲも明美をホテルに向かわせる時に「俺を捨てるんじゃねえぞ」と言っていたのを思い出して、ああ、この二人はお互い相手が捨てる立場だと思っているのだな、と感じました。明美に捨てられたらシゲは食べていけないし、シゲに捨てられたら明美は帰るところがないんですよね。小説の『ストリッパー物語』で、明美はこの少し前に唯一の家族を失っている描写があったはずで、なるほどな、と思いました。

 

明美:あ、直子ちゃんからエアメール来てたよ。ときどき文通してるんだ。(中略)……それとね、大学やめてニューヨークのロイヤルバレエアカデミーに入る決心したみたいよ。ダンサーになりたいんだって。
シゲ:なんだと!!
明美:あたしも昔入りたかったとこだし、いい先生もいっぱいいるからね、女の子ならだれでも一度はあそこで踊ってみたいんだよね。病気のお母さんに言い出せないらしいんだよね、で、あたしに言ってくれって手紙でたのんでるんだけどあたしの立場じゃ……ねえ。言えっこないよね。それに、あたしもオーディションで残ったけど今はこのざまだって手紙書いたんだ。よほどのことがなけりゃ、生き残れない世界だからって。
シゲ:末はおまえみたいなストリッパーになるつもりか。
明美:でもね、一番こわがってるのは、あんたに反対されるんじゃないかってことみたいよ。おかしいよね。父親は父親だろうけどこんな生活してて、反対なんかする訳ないのにね。

 この会話、明美とマリの交流が続いていることがよく分かって大好きです。マリはきっと実母に打ち明けられない分明美のことを精神的な支えにしているのだろうな、とか、明美も生まれられなかった娘をマリに重ねて可愛がっているのだろうな、とか、初めはあんなに緊張感があった二人が遠く離れた地で繋がり合っているのが愛おしいなと思います。

 一方でここのシゲは絞り出した言葉が「末はおまえみたいな~」なのが面白いです。シゲはダンサーの世界の厳しさを体験しているわけではないけれど、明美の姿を見ているから手放しで応援はできないということなのかしら。

 

 確かここでマリからの手紙が挟まるんですよね。このお手紙、どこかで読んだような気はしていたのですが、戯曲の「ストリッパー物語」を再読してこれだったか! とすっきりしました。マリが我慢しきれない涙を流しながら読む手紙にも「胸までとどく大雪です」という言葉が入っていて、異国の地で頼れる相手もいないマリは心細いのだろうな、と思いました。

 余談ですが、戯曲では日本語だった「いま、最後のトゥシューズの紐を結び、最終オーディションに向かいます」という結びの言葉が英語になっていることで受ける印象が更にソリッドになる気がして面白かったです。

 

明美:……どうせ踊れなくなるんだったら、あの時、無理にちらしてでも、帝王切開してでも産めばよかった。どうせ踊れなくなるんなら産めばよかったね。(中略)……できるよね、あたしの子だもん。あたしが教えるんだもん。こんな立派なお母さんがいるんだもん。
シゲ:おい、あの手あげて足回すやつ、いつ教えんだ?
明美:え? 何?
シゲ:俺が好きなあれだよ。いつもそこになると俺がそででじっと見てるだろ。くるくる回るやつだよ。
明美:ああ、あれは腰とか痛めやすいから十歳すぎないと。で、十歳になったら、十歳に十歳……ごめん。

 ここのシゲ、決意が固まったんだな、と思えて好きでした。明美の夢物語にも乗って、同じ人生を歩もうという覚悟ができたのだろうなという話し方が良かったです。

 年齢を一つずつ数えていく明美は毎回半べそで、とても痛ましかったです。あとこここで明美はバレエを教えるくらいには良い育ちで、本来ストリップをしているはずではなかったのだろうな、とよく分かるのが描き方として好きでした。

 最後の「ごめん」は、回によって、泣いて話せないことに対する謝罪だと感じる時と、次の話題への謝罪だと感じる時があって面白かったです。

 

シゲ:いいよ、ヒモがこんな長いタバコ吸ったらバチがあたるよ。俺はこれで十分だよ。(と、灰皿からシケモクを拾ってこそくに吸っている)いじけてシケモク吸うこの快感。男として生まれてよかったな。
明美:快感なんだよね。
シゲ:快感なんだ。
明美:喜びなんだよね。
シゲ:喜びなんだ。前むきのマゾヒズムってかんじなんだよな。

 シケモクって言葉、吾妻ひでお失踪日記』くらいでしか読んだことなかったな……。というのは置いておくとして、ここ、明美もシゲの「ヒモ道」を分かっている感じがあって好きでした。確認するように呼応している二人の空気感が優しくてとても良かったです!

 シゲがシケモクを拾いあげるところのいじらしさも大好きでした。「前むきのマゾヒズム」という言葉、シゲのテーマだと思うので、もっと考えていたい言葉です。

 

シゲ:なぁに、大丈夫ですよ。何だい、この手相。生命線なんか消えちゃってるよ。お前と一生離れられないっていう運命線だけが、くっきり残ってるよ。

 この台詞、トラザさんの手相がくっきりはっきりなのでより一層好きだなと思った台詞です。きっとこのシゲ、生命線だってしっかり見えているけれど、それでもあえて運命線しか残っていないと言うことで明美に誠意を示しているような気がしました。

 

明美:愛のヘッドロックだね。
シゲ:そう。哀しみのヘッドロック

 この台詞も大好き! この台詞の言い方が本当にしみじみとしていて、すっと胸に落ちるのが良いなと思いました。あと「愛」と「哀しみ」の言い換えが興味深くて好きです。

 

シゲ:明美ちゃん! 第一目標、あの白い石、発射!(後略)

 このシーン、本当に綺麗で凄いものを観たな、と思いました。また、ここで明美が声を上げて泣くのですが、シゲも暗くなっていく中で明美を抱えて泣いていたように見えて好きでした。

 

シゲ:レイディ! このフォーティセカンドストリートで今評判の出しものを教えてもらえませんか?
明美:どこの田舎もんがこのブロードウェイに迷いこんだんだろうね。このタイムズスクエアに来たらあたしの言うこと聞いてりゃ間違いないぜ。この道まあっすぐ行くとね、黒い髪の長い女の子が足を上げてる看板が目に入るさ、今日が初日のこのブロードウェイのミュージカル"レディ・サンフランシスコ"の劇場さ。そいつに決めな。見て損はないと思うぜ。

 タップやるって、聞いてないんですが~!? と、初日を観た時に驚きました。12月までタップダンスはないと思っていたので、急にトラザさんのおたくの人格が思考に割り込みました。ひぇ。

 ここ、泣いていた明美がシゲの手を掴んで立ち上がるのも、涙をぐっと捨てて台詞を述べるのも大好きです。学生の真似をしてやっていた茶番とは違って自然な口ぶりなのも、ずっとこの"レディ・サンフランシスコ"の真似をしていたのだろうな、と思ってグッときました。

 

シゲ:あんた、そんなに踊りが好きなのかい?
明美:ああ。あたしもあんな劇場でジェシー・マーチン様の振り付けで踊ってみたいな。お客さん、あたしだって顔の化粧をなおしてレオタード着りゃ、ちょっとしたスタイルなんだぜ。

 ここで百ドル札を降らせるシーンが好きだという話はもうくどいほど書いた気がするので割愛しますが、踊りが好きかと問われて肯定する明美も大好きでした。劇中劇の台詞でもあり明美の本心でもある構図がとても良かったし、だから明美もこの"レディ・サンフランシスコ"に憧れたのかなと思いました。

 

シゲ:見忘れたかい、ダーリン? そのケチな振り付け師の顔を! さっ、開演ベルが鳴り始めたぜ。主役のお前が行かなきゃ、"レディ・サンフランシスコ"の幕は開きゃしないぜ。
明美:えっ?

 ここの明美の踊り、晴れやかな表情だったのが大好きでした! それを見つめるシゲが嬉しそうな、それでいてどこか辛そうな表情だったのが印象的で、二人にとってのラストステージなのかな、と思いました。

 

明美:ヘイ! ポン引き野郎。いいでものはあるのかい? イキな女はいるかい?(中略)あたしは陽気なまちの娼婦だよ。あたしは陽気な港のたちんぼだヨ。でも、でもね、あのサンフランシスコのぬけるような日射しが、雲におおわれ雪に変わり、そして雪が胸に積もり、(中略)あたしの肩にふりつもる雪はやがてみぞれにかわり、私の心のしんまで凍りついてしまいそうだヨ。

 この明美の長台詞、明美の決意と覚悟が一番よく表れているところで好きでした。回によって感情の現れ方は異なっていたのですが、明美の外面であったり内面であったりする気がしてその違いが面白かったです。

 

明美:(前略)外は雪だヨ、胸までつかる大雪だヨ。

 この最後の振り絞るような絶叫がとても胸を打って好きでした。

 この後のマリが出てきて踊るところ、かき消されていますがマリが「お母さん」と呼びかけるのも本当に良かった……。大好きな演出でした。

 そっと後ろから出てきたシゲは、どういう気持ちであの二人を見つめていたのかな。あの表情も未だ読み解けずにいます。

 明美がシゲを見つめて倒れるところ、千穐楽だけ違ったと思うのですが、『ヒモのはなし2』に記憶を奪われてしまってあまり思い出せません……。悔しい。

 

シゲ:雪が夜になってみぞれにかわり、明美と俺の肩につもって、じっと黙って歩いたよね。(中略)やめ! 麻雀やめ!(後略)

 ここの台詞の声の低さ、めちゃめちゃ好きでした。しんしんと雪が降って音を吸収している夜の冷えた空気が伝わってきて、いつも太陽のような温かさをくださるトラザさんからこの表現が出てきたことがとても嬉しかったです!

 ここのシゲ、悲しみを抱えたままのように見えて、ひょっとすると明美はマリとシゲのために尽くすと決意して晴れやかでも、シゲはまだ自分の気持ちを掴み切れていなくてそんな表情だったのかな。

 

シゲ:(前略)うるさいわね、集中できないじゃん! (中略)県会議員も、うんわるかった、力合わせてもうひと押し押してや。で、ワッセワッセ。(後略)

 ここからトラザさんらしさが出てくるのが好きでした。シゲ、明美、県会議員、黒背広と、複数人の台詞を一人でまくし立てることになるので最後の最後にとても大変だったろうなと思うのですが、ヒモではなくポン引きになったシゲの生き様が余すところなく伝わってきて大好きでした。

 「ワッセ、ワッセ、ワッセ!」で「デイ・ドリーム・ビリーバー」が流れるのも本当に大好きでした。清志郎の歌声が合いすぎる。

 

シゲ:(前略)するとスーッと霧がかかって県会議員の尻が消えちゃうの。(中略)何で泣くのよ、何が哀しいのよ。

 ここ、本当にどんどん泣きそうな顔になっていくシゲの感情が本物で、シゲが明美に対してプラトニックに繋がれたことがとても嬉しくなりました。

 

 ラストシーンの台詞は戯曲「ストリッパー物語」のもの。

ヒモ:(前略)そうだ、きっとオレは何よりも君と心と身体をつなぐ絆が欲しかったのだ。だからオレは汚ねぇ尻を押せたんだ。「君以外の心ではだめだから、君以外の身体ではだめなんだ」君の心が欲しいから、君の身体が欲しかったのだ。

 この台詞、あるなしでかなり後味が変わると思っていて、これがあることでシゲは探していた感情の答えを見つけられて、おたくもなるほどそうか、と思えるので好きです。

 この台詞のあと明美がシゲに抱き着くのも含めて、毎回「フィナーレ!」の言葉と共に「幸せだ!」という気持ちになっていました。

 

 

 『ヒモのはなし』の舞台は、何もセットがないのですが、私が舞台を好きになったきっかけはミュージカル『忍たま乱太郎』第一弾の頃の、何にもない空間で全てを表現する無限の可能性に魅了されたからなので、原点回帰のようで好きでした。

 舞台はどんな作品になるのか蓋開けてみないとわからないし、面白くても自分に合わないということもあるので、正直なところ、観る前に全通を決めてチケットを取るというのはかなりリスキーで、賭けだと思うのですが、『ヒモのはなし』は何度観ても新しい気付きがあるし、より良い仕上がりを求めて少しずつアップデートをしてくださっていたので、全部観ると決めて本当に良かったなって思いました!

 あと今回は初めて舞台を観るという友人が来てくれたのですが(感想とイラストを引用した友人です)、初めて観た舞台が『ヒモのはなし』で良かったと思う、と言ってくれていてとても嬉しかったです!

 今回初めて拝見した方もたくさんおられましたが、今後また拝見できたら嬉しいです。改めて、全14公演本当にお疲れ様でした!

 

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