静心なくお金飛ぶらむ

オタクの現場備忘録。内容と語彙がない。

刃鋼 2024.3.23-2024.3.24

3/23 山将舞台企画『刃鋼〜HAGANE〜』昼公演・夜公演@名東文化小劇場

3/24 山将舞台企画『刃鋼〜HAGANE〜』@名東文化小劇場

 

 

 水曜日から始まった『刃鋼』ですが、あっという間千穐楽。土日の3公演を観劇してきました。

 今回は土日の感想といいつつ全体の感想を多めにまとめていきます。

※まとまりません

 

〜配役〜

佐々木翔太郎:名古屋虎三郎さん(以下「トラザさん」)

鈴村新兵衛:佐藤匠さん(以下「匠くん」)

千代枝:綾瀬麗奈さん

佐々木多恵:川村昇子さん

蛇足(山雅貞彦):名古屋山三郎さん(以下「サンザさん」)

太吉:渡部将之さん

初音:元山未奈美さん

花屋敷風流:岩崎真さん

番頭:山本のぼるさん

又八/みさき屋の大将:佐治なげるさん

工藤甚六:渡辺一正さん

玄之介:宮谷達也さん

門倉仙:八代将弥さん

河村作治:宮田せいじさん

松田:村井雅和さん

吾郎:山口雅也さん

丸眼鏡:岩男考哲さん

権三郎:加藤正さん

カヨ/お七:柳澤柚月さん

お由:射場心々美さん

お菊:倉地佑奈さん

アクションアンサンブル:南勇大さん・加藤大輔さん(以下「だいちゃんさん」)

 

 

 

 

翔太郎のエゴイズム

 私が『刃鋼』で一番好きなもの。それが翔太郎のエゴイズムでした。

 翔龍館は確かに庄内藩預かりになりました。その功績は実際のところ翔太郎が戦に出たことへの褒美でしかなく、それを翔太郎も本当は理解しています。理解した上で門下生たちに対して「皆の力でここは庄内藩預かりとなった!」と言うのは、新選組への憧れが強いからだと思いました。新選組は強さで壬生浪士組から会津藩預かりの新選組に名を変えた(と私は思っている)ので。翔龍館が認められたと信じたかった、という方が近いでしょうか。だから、庄内藩邸の護衛など命じられていないにも関わらず守らなければの一心で勝手に動いているのだと思いました。それがとてもエゴイスティックで大好きです。

 また、口では門下生たちを褒めながら、本心では弱くて守らなければならない存在であると考えている。それはとても傲慢で人間らしいなと思います。傲慢さといえば、松田を拷問して血まみれになっている翔太郎が、自分がしていることは正当であるにも関わらず弟子のくせに歯向かうのかと言わんばかりに門下生らを投げ飛ばしているところも傲慢で大好きでした。

 この正太郎のエゴや傲慢さは(我々おたくが抱く)トラザさんのイメージとギャップがあるからこその良さだったと思います。普段おたくは「まっすぐで堅気な男」の面ばかり見せていただいているので、トラザさんに人間らしさを感じることができて嬉しかったです。

 

 

翔太郎と新兵衛

 翔太郎と新兵衛の関係性もずっと好きでした。

 まず最初の門下生らの喧嘩のシーン。ここ、門下生に翔太郎がヘラヘラしているところを見せると共に観客の予想を裏切るシーンでもあったなと思います。フライヤーやOPでは寡黙で厳しい印象があったため、一度ここで「翔太郎って明るい人なんだな」と思わせられた気がします。その中でも、危なっかしい新兵衛にはしっかり釘を刺している。その緩急が面白かったし、ヘラヘラしているだけではないところが描かれていて好きでした。

 

 次に道場破りのシーン。このシーンは新兵衛の鋭さが光っていて好きでした! いつものようにヘラヘラして見せる翔太郎に対し、一人翔太郎の嘘を見抜くことができる新兵衛。これが後に庄内藩に突入した際に新兵衛だけを連れていくことに繋がったのかもしれない、と思いました。

 このシーンの翔太郎、「この道場はな、弱いんだよ」「己に力がある思うな」など、とても厳しいことを言いますが、最後に諭す「わかったな」の声音が柔らかく、兄としてこんな風に多恵にも諭すことがあったのだろうか、と思いました。一方新兵衛は翔太郎に弱さを突き付けられて、不服そうにしているところが新兵衛の性格に対する理解を深めさせてくれて好きでした。

 

 そして、翔太郎の行き過ぎた正義感が露呈する松田拷問のシーン。ここの新兵衛、翔太郎を松田から引き剥がした時に手に血がついて愕然としているのが良かった……! 普段から人を斬っている可能性は考えていても、実際に目にするのは衝撃の大きさも全然違うということがひしひしと伝わってきました。尊敬している先生が残酷なことをしている。返り血を浴びている。そんな先生を引き剥がしたのだから、当然自分の手にも血がつく。新兵衛にとって初めて死や戦を身近に感じた瞬間だったのではないかなと思いました。

 それでも新兵衛をはじめ翔龍館の門下生らが翔太郎について倒幕派に対抗する方向に舵を切るのはやっぱり時代性なのかな、と思いました。最後のチャンスだし(この辺りの話は初日の感想で話しています

 そういえば翔太郎が新兵衛の刀を抜くところが、台本では二人が刀を交えることになっていて、演出で変わったのかな? と思いました。公演時の演出の方が二人の力量が歴然としていて好きです。あとここ、自分の門下生相手に膝を叩き込んだり張り倒したり、翔太郎が大暴れしていて、普段ヘラヘラとした顔で隠している凶暴さが出ているのが良かったです。

 

 庄内藩邸では翔太郎と新兵衛だけ別行動。これ、その前の「先生の志の、お供をさせてください」という言葉を受けて翔太郎が新兵衛のことを認めたのだなと思いました。実戦に出て銃の脅威を知った翔太郎が、門倉一派の銃弾の雨の中を、それでも前に進むことができたのは絶対に新兵衛の言葉のおかげだと思っています。翔太郎が鉄砲に負けないところが見られて、昔新選組側の目線で鉄砲に絶望したおたくが少し救われました。

 翔太郎が最期に新兵衛に言った言葉、台本を読めば分かるかしら、と思ったのですが、書かれていなかったのでいくらでも想像できちゃう。現地で見た感じでは「頼む」くらいの短さだったので、いつか答え合わせをしたいです。

 

 千穐楽のトリプルカーテンコールで、最後に捌ける時に下手袖でトラザさんが「たしカニ」のポーズをしたのを見た匠くんが真似をしてくれたのがとても嬉しかったので今度お礼を言いに行きます。が、『刃鋼』の感想は10秒程度では絶対に言い尽くせないので多分トークポートがあれば軽率に行く予感がします。

 

 

翔太郎と太吉

 X(旧Twitterでもずーっと言っている『刃鋼』で大好きだったコンビがこの昔馴染みコンビ。余りにも好きだったので、いつの間にか手元に渡部さんのチェキがありました。

 

 翔太郎と太吉のやり取りってとても温かくて、一瞬で幼少期に戻ったような空気になるのが好きです。幼い頃からしばしば翔太郎と太吉が玄之介の元を訪れていたのだろうし、そのまま太吉が弟子入りしても翔太郎がしばしば遊びに来ていたのだろうな、と想像する余地があって良い関係性でした。だからこそ、翔太郎と太吉も幼い頃のままの関係性を崩さないようにしていたのではないかなと思いました。

 

 翔太郎の死について、太吉は翔龍館の面々を責めますが、その実自分を責めていたのではないかと思います。もちろん、翔太郎を守ることができる人がいたとすれば、それは共に戦場に出ていた彼らのみです。でも、もし太吉の刀鍛冶の腕前がもう少し高ければ、翔太郎に渡すに値する刀が打てていたかもしれない。そんな悔恨はあったのではないかなと思います。

 

 これは幻覚ですが、翔太郎は元水戸藩士で苗字がある武家階級、太吉は苗字がなく鍛冶屋なので庶民ということは、幼少期身分の違いがありながらも二人で村一番の悪ガキをしていたのか……という風景を想像して、そういう裏話がたくさん欲しくなりました。宮谷さん、何とかなりませんか?

 

 

翔太郎と玄之介

 翔太郎を子供の頃のままだと信じたい(ように見える)太吉とは対照的だったのが玄之介でした。彼は腕利きの刀鍛冶としてきっとたくさんの人斬りを見てきたのだろうと思います。それこそ蛇足もそうですが、きっと蛇足以外にも玄之介の腕を見込んで訪れる人斬りはたくさんいたはず。だから翔太郎の歪みにも気が付いていたのだろうと思いました。

 

 翔太郎が刀を依頼しに来た時、玄之介が「金はいらない」と『初心』を預けてくれるのは、言葉の通り「良い話を聞いたから」というのもあると思いますが、自分が長くないことも理解していたからなのだろうなと思いました。もし玄之介がまだ刀を打つことができて、それが蛇足に授けた妖刀を上回る出来であれば、蛇足ではなく翔太郎に自分を斬るよう頼む未来もあったのかもしれないし、翔太郎ならひょっとすると斬ってしまうこともあるのかな、と思いました。

 

 

翔太郎と蛇足

 この二人の関係性、理解するには知識が足りなくて難しかった……! 二人は以前戦場で出会っていて、仲間ではない。そして蛇足が天狗党の生き残りということは、二人が出会った戦場というのは天狗党の乱なのかな? 元々翔太郎が所属していたという水戸藩尊攘派の印象があるのですが、天狗党の乱についてわからなさすぎてWikipediaに聞いたところ、反乱側も鎮圧側も中心となっていたのは水戸藩士のようだったので、翔太郎は鎮圧側の水戸藩士、蛇足は反乱側の天狗党だったのかな……。

 蛇足も翔太郎のことを知っていたようなので、二人とも戦場で手練がいると噂になっていて、認めていたのかなと思いました。立場が同じであればきっと良い同志になれていたのかもしれないな……。蛇足はもはや思想には興味がなく、降りかかる火の粉を払っているだけだったので、門倉に取られなければ……と思ってしまったのは許されたいところです。

 

 翔太郎は門倉一派に蜂の巣にされても倒れず前に進み続けましたが、同じ刀工の作の刀に『初心』を折られてしまって、負けたことを理解してしまったのだと思います。だから、最後の一刺しを抵抗せず受け入れることになったのだと感じました。それがとても悔しいような、逆にほっとしたような、剣豪としての矜持が守られたような気がしました。

 

 初日、OPで舞台上に人がひしめき合っている中お二人のバチバチの立ち回りがあると思わず、「えっ」と声が漏れそうでした。他の方も動いている中でお二人だけが違う動きをしているというのはとても難しそうですが、それを可能にする舞台上の管理が素晴らしかったです。

 

 

翔太郎と諏訪栄三郎

 諏訪栄三郎はナゴヤ座の演目「SAZEN」シリーズのキャラクター。こちらもトラザさんが演じておられた剣豪ですが、二人とも道場で剣術を学んだ人物でありながら印象が違って面白かったという話です。

 

 栄三郎が生きた時代は、幕府による泰平の時代です。だから、(魔剣に操られる前の)栄三郎の戦い方はとても正統派で、道場で学んだ剣術という印象が強くあります。同じように道場で剣術を学び、道場を開いている翔太郎ですが、彼は実戦に出ているからか平気で蹴りを入れる姿が印象的でした。

 

 『刃鋼』では「強い武士にまともな奴ぁいねえ」と言われていましたが、やはり栄三郎にもまともではない面があったのだろうか、鉄斎には……、と改めて「SAZEN」シリーズについて考えるきっかけにもなりました。

 

 『刃鋼』と「SAZEN」シリーズはキャッチコピーからして似た系統の物語になるのだろうかと思いながら、今回『刃鋼』に足を運んだのですが、『刃鋼』は歴史創作の面が強く個人的に好みでした!

 

 

翔太郎と門倉

 翔太郎は、庄内藩に取り立てられたことをよすがに頼まれもしない藩邸護衛の任に勝手に就いているし、門倉は薩摩に鉄砲を流したという一商売をよすがに薩摩が自分を守ってくれると思っているところが本当に小さくて大好きでした。きっと両藩主は勝手に戦をされて迷惑だと思う……。

 

 門倉、翔太郎の挑発に簡単に乗ってしまうし、いくら鉄砲を打ち込んでも何故か翔太郎は倒れず向かってくるし、頼みの綱の蛇足は庄内藩士ではないからと動いてくれないし、怖かっただろうな……。

 翔太郎が銃に負けないところが大好きなので、千穐楽で『初心』が門倉の銃に当たって折れてしまってとても悔しかったです。『初心』が銃に負けたことで、他の回で蛇足に折られた時よりも与えられた絶望が大きかったし、刀が銃に勝てないと突きつけられてしまって悲しかった……!

 

 

翔太郎と初音

 翔太郎と初音の関係性に甘さがないところ、大好きでした! 初音が女性であるまま浪士として活動するってきっととても大変だったと思います。それでも佐幕のため翔太郎と対等な同志として肩を並べて戦っているのが良いなと思いました。

 

 翔太郎が門下生らと揉め緊迫しているところに初音が来るシーンで、翔太郎の手が「黙れ」という度に固く握りこまれていくところが大好きでした。翔太郎の不甲斐なさ、認めたくない弱さ、後ろめたさがすべて現れているように見えました。あとここ、「黙れ」と言われて本当に黙る初音が大声を出されてびっくりしたような顔をしているように見えて、多恵や門下生らも見たことのない顔を見てきたはずの初音もあの翔太郎は初めてだったのだろうかと思いました。

 

 意外だったのが、翔太郎の死後、翔太郎に打ち込まれた弾から刀を打って欲しいという新兵衛に対して否定的な態度を取るところ。初音は新兵衛と共に刀を打つべきだというスタンスかと思ったのですが、「わかんないでしょ、もう死んでんだから」と言い出した時に、初音は初音で翔太郎を支えとしていて、それが失われてしまった悲しみが深いのだろうなと思いました。

 

 余談ですが、翔太郎の死後初音が翔龍館の面々と稽古をしているシーンで、初音が翔龍館のやり方に合わせているのが好きでした。きっと翔龍館の基本の稽古は翔太郎や初音が剣術を学んだ道場でやっていたものなのだろうな……。翔太郎がいなくなっても教えが残っているのが良かったです。

 

 

新兵衛と蛇足、二振りの怪物

 初日以降の新兵衛の感想としては、個人的には土曜夜の蛇足に対する「お前が決めることじゃない」が大好きでした。怒りに突き動かされている回も好きなのですが、この回は泣きそうな顔に見え、翔太郎への追悼なのだと思いました。

 『刃鋼』を通じて、玄之介の打った「怪物」は人を斬る道具として、太吉の打った「怪物」は人を守る道具として描かれていると思います。太吉の打った刀は蛇足を斬ったものの、新兵衛はその後人斬りにはならず、道場を守っていました。だからあのシーンは「怪物」を握っても人斬りになるとは限らないという証左に他ならず、それは玄之介や蛇足に対する反抗心であるとも思いました。

 

 蛇足のラストはもう見事の一言に尽きました。初日「まさか階段落ちはしないだろう」と思った一番の理由が、階段下のスペースの狭さ。初日に拝見した時は客席まで落ちてきてしまうのではなかろうかと思ったのですが、さすがの身体能力でぴたりと止まってらして何度観てもわくわくしました。蛇足についても別の項でゆっくり述べたいところです。

 

 

新兵衛と太吉

 『刃鋼』の主人公はこの二人だと思っています。どこかで新兵衛と翔太郎がW主演という話を見た気がしたのですが、私は新兵衛と太吉だと思います。『刃鋼』は翔太郎から新兵衛へ、玄之介から太吉へ継承していく物語だったし、二人が師匠の意思を守る物語だったと思います。

 

 太吉は玄之介と翔太郎という替えの効かない存在をほぼ同時に失っています。だから翔太郎を失ってなお立ち上がらなければ、と足掻く新兵衛よりも太吉の方が強く無力さを感じていたように見えました。

 

 ラストでお二人が呼応するように声を上げて刀と槌を振り下ろしたのも好きでした! ひょっとしてOPも呼応している……? と思ったのですが、もしかして、と思ったのが千穐楽だったので確認できずにいます。今すぐ円盤か配信が欲しい。

 

 主演コンビのチェキを並べるのも良いなあと思ったのですが、匠くんのチェキは本人がInstagramのストーリーズでも枯らすように呼び掛けていたこともあり大人気で、ファンの方が買えた方がいいな……と思ってやめてしまいました……。が、帰宅してから、1月に匠くんとチェキを撮ったことを思い出したので実質新兵衛と太吉ということで処理しました(?)。

 

 

鈴村新兵衛と佐藤匠

 大仰な小見出しになってしまいました。

 匠くんが所属するグループ、BMKはBOYS AND MENの弟分にあたります。BOYS AND MENを追いかけていれば必ず聞くのが「夢は諦めなければ必ず叶う」という言葉。私は新兵衛を観ながらこの言葉を思い出しました。

 太吉の元に翔太郎の遺体を運んだ時、他の皆は立ち上がるための支えを失っていました。風流の「負けてんだろ、とっくに」の台詞の通り、翔太郎が勝てないのであれば蛇足に勝てる可能性は低い。その中で一人立ち上がろうしていたのが新兵衛で、「負けのままでいいんですか?」という台詞を聞いた時、匠くんだからこそ出せる色を感じました。

 BMKって、BOYS AND MEN研究生から半数が祭nine.としてデビューしてなおBOYS AND MEN研究生に取り残された、苦しい時代を乗り越えた力強いグループだと思っています。いろんなことを乗り越えて生き残り続けた諦めの悪さが、新兵衛に乗っている気がして、「アイドルの佐藤匠」という土台があるからこそ板の上で生きる「鈴村新兵衛」という存在の質感が増していたように感じました。

 

 

蛇足と千代枝

 翔太郎と初音の間に恋愛感情が描かれないことと対照的に、蛇足と千代枝の関係は深い情で繋がったものだったのが面白かったです。

 

 蛇足は千代枝に対しあまり気のないような素振りを見せるものの、千代枝が身籠ったことを知る前から千代枝を身請けするために門倉に手を貸す選択をしていて興味深いなと思いました。子供ができたから責任を取るわけではなく、自分を「蛇足」ではなく「山雅貞彦」として見ている千代枝のことが気に入っていたのだろうな……。

 千代枝は千代枝で、吉原を出るため男の相手をする一方、蛇足に対し子供を理由に迫ることはなく、一人ででも子供を守っていこうとする強さが好きでした。あれ、もしかして蛇足から千代枝への継承の話でもある……?

 

 

玄之介と蛇足

 この二人の関係性も面白いなと思いながら観ていました。蛇足が振るう刀も、蛇足が折った刀も玄之介の打ったもので、この物語に玄之介は必要不可欠だったのだなと思います。

 

 玄之介は自分の先が長くないことを感じ取って蛇足に斬るよう懇願するわけですが、あの場面で蛇足が「逃げるのか」と返すのが意外でした。蛇足が傑作を手に入れて人斬りとして生きていくことになったように、玄之介も自分の手で人を殺す道具を作り出していくことにしんどさを感じていたのかもしれないな……。

 

 ところで、昔馴染みが玄之介の弟子である翔太郎はともかく、縁もゆかりもない蛇足がわざわざ刀を買いに来て、メンテナンスまで依頼してくる玄之介の刀鍛冶としての腕の良さ、どこまで広まっているのかとても気になります。

 

 

翔龍館門下生

 翔龍館の門下生の三人組、甚六・風流・作治は見れば見るほど愛おしさが増していくポジションでした。

 

 甚六は視野の広さがあって、風流や作治が気が付いていない翔太郎の秘密の存在を感じ取っています。視野の広さという点では火事のシーンで甚六だけがみさき屋の大将に挨拶をしていたのも好きだったのですが、ちょうど拝見できなかった平日の回でアドリブのタイミングを失敗したと、サンザさんと渡辺さんのYoutube「モラトリアム道」でお話されていて、うまく行った回を観たのだな……と思いました。

 また、二回目の稽古のシーンで甚六が刀を振り下ろした瞬間綺麗な「ヒュン」という音が鳴って少し笑ってしまいました。甚六、きっと剣術を学んで長いのにあんまりセンスがないタイプなのだと思います。

 

 作治は自分の敵わない相手に嫌がらせをする器の小さな男ではありますが、それも翔太郎を慕うが故だったのだと思います。また、弟弟子でありながら自分より翔太郎に認められている新兵衛を疎ましく思う一方、その強さを認め信じていたところがとても愛おしい人物でした。

 翔太郎の遺体をどうするかというところで、「供養してやるべきじゃねえの?」と言えるまともさが作治の弱さをよく表している気がして好きでした。宮田さんのお名前はちょくちょく拝見していたのですが、またお芝居拝見したいと思いました!

 

 風流はずっと一歩引いたところで見ていて、翔龍館の中で一番冷静な人物であったと思います。ただ、風流は冷静である分、本気になることができないタイプのように感じました。それが、翔太郎の死を経てどんどん感情が露わになって、本気で新兵衛を殴る様子がぐっと来ました。

 それにしても「花屋敷風流」ってお名前が良すぎる……! そのお名前は自分で名乗り始めたんですか? まさか本名ではないと思うのですが、その名前を名乗ることになった経緯が本当に気になります。個人的にはお名前の字面を見ていると沖田総司の辞世の句(「動かねば 闇にへだつや 花と水」)が頭を過ぎります。

 

 

門倉一派

 『刃鋼』を観たおたくたち、だいたい皆門倉一派のことが好き。だってキャラクタの個性が強すぎるから。

 

 門倉は本当に面白い人だったなと思います。まずあの風貌の異様さ。幕末の世で刀も持たず洋装にピストルという姿もそもそも目立つのに、八代さんを介して出力されていた門倉という男は身に纏う空気が妙に寒々としていたように感じました。

 であるにも関わらず、妙に律儀なところがあって、ちゃんと蛇足には一度報酬を払って解放しているし、薩摩藩に見捨てられることはあっても)部下のことは大切にしている。バランスが本当に良かったです。千代枝を盾に蛇足を動かしながらも特段見張りをつけるわけでもなく、甘さがあるのも好きでした。

 

 松田はとても可愛くてツボでした。松田は門倉の腹心ですが、何とも言えない小物感がずっと漂っているところが本当に好きです。初めて蛇足の元を訪れた時も刀を向けられてわたわたしているし、翔太郎に見つかる寸前には財布を調べようとしているし、結局捕まえられてずるずると引きずられて行くし……。拷問にかけられて計画を白状するところも松田らしくて好きです。でもきっと松田はあの後失血で死んでしまったのだろうな……。

 松田は門倉に憧れて着いてきたのだと思っているのですが、あまり銃の扱いが得意ではなさそうなのがまた愛おしいキャラクタでした。

 

 黒岩と柳は、自分で着いてきた(というイメージですが)松田と違い、どちらかというと腕を見込まれて雇われて、そこからだんだん門倉に惹かれていったような気がします。南さんとだいちゃんさんの若者らしさがいいスパイスになっていて、門倉一派に花を添えていたように思います。

 ところで黒岩は足を斬られただけで生きているとだいちゃんさんが仰っていて、じゃあ黒岩は戦闘に参加できず一人置き去りにされてしまったということ……? と震えています。隠れ家の中で火事の音を聞いて戦が始まったことを知って、火事が収まっても帰ってこない仲間たちを待ったりしたのかな……。

 

 

千代枝と三人娘

  千代枝と禿の三人娘の関係性もとても好きでした。三人は千代枝の下禿として働いているからか、蛇足に対して物怖じしないところが良かったです! 蛇足自身が禿に対し酷い扱いをしていないということもあると思うのですが、町で蛇足を見かけても平気で話しかけに行くことができる関係を築いていて可愛かったです。

 また、千代枝が身籠っていることを善意で言ってしまうのも、千代枝が蛇足には秘密にしておこうとしているのを汲むのも、皆が優しくて良いなあと思いました。

 

 また、みさき屋では町娘に姿を変えて登場しますが、土曜日の公演で謎ジェスチャーで盛り上がっているお三方を観てしまってからずっと翔龍館の面々よりそちらに視線が奪われてしまってずるかった……! カヨ、毎公演不思議な名乗りポーズで面白かったし、千穐楽で客席から自発的に拍手が起こった時の表情がとても良くて今後が楽しみだなと思いました!

 

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 一週間かけてちまちまブログを書き続けて、だいたいこの記事が1万字なのですが、ちーっとも書き足りていない気がするし、今後もまだまだ感想や幻覚をSNSで吐き出す予感がしています。たった6公演しかないにも関わらず4公演しか拝見できていないことが悔しいくらい素敵な作品で、毎公演笑って泣いてができることがとても幸せでした! またこの制作陣の作品が観たいので、第二回公演もお待ちしております……!