静心なくお金飛ぶらむ

オタクの現場備忘録。内容と語彙がない。

国性爺合戦 2024.12.13-2024.12.15

12/13 30-DELUX NAGOYA『国性爺合戦~虎が目覚めし刻~』@名古屋市青少年文化センターアートピアホール

12/14 30-DELUX NAGOYA『国性爺合戦~虎が目覚めし刻~』昼公演・夜公演@名古屋市青少年文化センターアートピアホール

12/15 30-DELUX NAGOYA『国性爺合戦~虎が目覚めし刻~』@名古屋市青少年文化センターアートピアホール

 

 

~配役~

和藤内:村瀬文宣さん
小むつ:高畑結希さん
甘輝:内海太一さん
李蹈天:名古屋虎三郎さん(以下「トラザさん」)
韃靼王:三隅一輝さん
梅勒:平野泰新さん
晴太:岡大和さん
錦祥女:杉山愛佳さん
華清夫人:斎藤美七海さん
呉三桂:村井雅和さん
思宗烈:田中精さん
了政大:寺田遥平さん
栴檀皇女:礒谷菜々さん
太子:神谷脩介さん
渚:小嶋彩子さん
老一官:杉本明朗さん
虎:清水順二さん
柳歌君:池谷優奈さん
アンサンブル:木下竜真さん、櫛田実伶さん、南勇大さん、山室祐太さん、屋宜彪月さん、稲山紗希さん、眞野颯さん

 

 

 この感想は、主に李蹈天に注目し続けた上、感想を書き上げる前に違う作品を観てしまったおたくが書いています。書きあがるまでに時間を掛けすぎているためどんどん記憶が薄れています。ご容赦ください。

 

和藤内/村瀬文宣さん

 今作の主人公、和藤内。良い人だなあ、と思います。本当に。両親の教えをよく守り、困っている人を守るために剣を振るう。見ず知らずの明の民のために戦うことに抵抗はあれど、それでも剣を握ることができるのは善性の賜物なのだろうな。

 

 初日を観劇している時は、『国性爺合戦』という作品は流離譚的だなと思っていました。和藤内が明に渡り、名声を得て勧善懲悪を成し遂げ、元いた場所に戻るというよくある話型。しかし、それで終わるのではなく、平戸に戻った和藤内の苦しげな様子と、現代に続く戦争の音で終わることを選んだことに衝撃を受けました。今回の作品はエンタメ性が強い印象だったのですが、ラストシーンがあることでずん、と重い空気がのしかかってくる感覚があって、とても好きでした。

 国性爺鄭成功として担ぎ上げられた和藤内は次第に自分がしていることが戦争であり、南京に生まれた韃靼の民にとっては自分が侵略者になると気が付いてしまい、次第に精神的に弱っていく様子が見て取れて、その人間らしさが好きでした。

 

 和藤内は日本と明の両方の地を引いていますが、物語の中で「和藤内」と「国性爺鄭成功」という二つの名前の使い分けが面白かったです。虎を斬り、甘輝と手を組んだ和藤内は明での地位を得て国性爺鄭成功と名乗るようになりますが、老一官や小むつは一貫して和藤内と呼び続けていました。これ、きっと老一官たちは故郷が日本だと理解していたからなのだと思います。

 

 先月『のうぜい合戦』(こっちも合戦だ……)で拝見した村瀬さんはカメラを手に政界の闇と戦っておられたのですが、今回は立ち回りをたくさん拝見できて嬉しかったです。特に最後の李蹈天との立ち回りは圧巻で、あまりの剣速に一生懸命目で追っていてもちっとも追いつけませんでした。村瀬さんとトラザさんの立ち回りを特等席で観ることができ、本当に運が良かったです。お衣装のはためきも本当に素敵で、ここの立ち回りを存分に魅せるためのお衣装だと伺って感謝の念に堪えません。

 

 

小むつ/高畑結希さん

 小むつについてはほとんど李蹈天を通して考えていたため主には李蹈天の項で述べようと思います。

 

 ということで、ここでするのは小むつの好きなシーンの話です。

 明と韃靼の戦争が終わり日本に帰ってきた小むつが晴太に嘘をつくところ。もう渚は命を落としているため返答に窮する和藤内と違って言葉を発することができるのは小むつの強さなのだろうなと思いました。

 

 小むつと栴檀皇女のシーンは、稽古場の配信などでも登場していたため、ここだったのか、と分かって嬉しかったです。小むつと栴檀皇女は八年という月日を共に過ごす中で友人や相棒という関係性になれたのだろうと思うのですが、栴檀皇女は明に残ったのでもう会うことはないのだな……。

 

 実はまた舞台を拝見する予定があるため、楽しみにしております。田村さんがご出演の舞台で村瀬さんを拝見して、トラザさんがご出演の舞台で村瀬さんと高畑さんを拝見して、また田村さんがご出演の舞台で高畑さんを拝見する、謎のリレーが行われているような気がする……。

 余談ですが、カテコの写真をSNSに載せるとたくさん高畑さんのファンの方が拡散してくださっていて、ファン層の規模の大きさを感じています。

 

 

甘輝/内海太一さん

 いつの間にかグループ名がカラフルダイヤモンドに変わり2.5次元舞台にも出演していた内海さん。久しぶりに拝見したのですが、まず何よりもお顔立ちとお衣装の相性にびっくりしました。中華系がとても似合う……!

 

 甘輝のシーンで一番好きだったのは、了政大と共に戦うところです。甘輝は明の民でありながら、錦祥女や部下という明の民を守るため明を裏切って韃靼につき、了政大は韃靼の民でありながら明の民を守るために韃靼を裏切って明につきました。このよく似た属性の二人が、味方同士になったり敵同士になったりと関係性を変えながら、最終的に手を組むことになるのがとても面白かったです。

 

 また、甘輝と李蹈天らの違いも興味深かったです。李蹈天や小むつは韃靼に故郷を追われた者。甘輝は韃靼に与する形で故郷に留まった者。李蹈天と甘輝は韃靼への復讐は果たした者で、小むつは復讐を選ばなかった者。似ているようで少しずつ違う人生が描かれているのが面白いところだなと思いました。

 

 

李蹈天/名古屋虎三郎さん

 私はこの四公演の間李蹈天の考えていることが知りたい一心でひたすらに李蹈天に注目していたのですが、やっぱり彼が本心で何を思っていたのか推し量るのはとても難しく、この感想を書いている今もなお考えています。

 まだまだ嚙み砕いている途中なのですが、ひとまず考察のような感想を記しておこうと思います。

 

 李蹈天は、明の民の手によって制裁を受けることを「自分への復讐」にしていたのだと思います。ただ死ぬことが目的であれば、韃靼王を殺したその剣で自分の首を切れば済むことです。にも係わらず、そうしなかったのは、罪人として死ぬことが大事だったのだと思いました。

 李蹈天は韃靼に故郷を追われ孤児となったところを老一官(当時は鄭芝龍ですが)に拾われ、剣を学び、明の皇帝に仕えるようになりました。韃靼への復讐心は依然としてあり続けていても、韃靼王を討ち取ったとしてもそこにもう仲間はおらず、帰る理由がないのではないか。そう思ったのは、李蹈天と小むつが対になっているからです。小むつは故郷を追い出され復讐のため剣術を身に付けましたが、辿り着いた平戸で和藤内と出会い、平戸が小むつの帰るべき場所(=故郷)になりました。小むつが言った通り、小むつと李蹈天は「同じ」なので、小むつの故郷が変わったのであれば李蹈天の故郷も変わっているはず。小むつにとっての和藤内に呼応するのは老一官なので、李蹈天の故郷は明になったのだと思います。そんな明を裏切り韃靼を引き入れた李蹈天は、明にいることは許されない。だからこそ、明の民に大罪人として裁かれようとしたのではないでしょうか。

 きっと李蹈天は明のことが好きだったのだと思います。それは、自ら思宗烈を殺害したにも係わらず韃靼王の御前で思宗烈を指して「皇帝」と呼んだところから感じたのですが、もう一か所感じたところがあります。それは、思宗烈が栴檀皇女に李蹈天との縁談を持ち掛ける場面。あの時点で既に李蹈天は韃靼を招き入れるべく事を起こしています。もちろん、皇后である華清夫人とその御子を韃靼が狙うのは分かります。世継ぎがいると厄介なので……。しかし、李蹈天は明を裏切った以上、栴檀皇女との縁談を進める理由が薄いように感じました。それでもそのような話が出たのは、李蹈天が本当に栴檀皇女のことを気に入っていたからなのではないかと思いました。

 ラストシーンで李蹈天が自分への復讐を諦めるのも、(小むつの言葉がある前提ですが)栴檀皇女の「生きよ」という言葉が決め手でした。太子を初め他の誰に言われても「うるさい」とでも言いたげな表情だったのが、栴檀皇女に言われるとはっとしていたのが本当に好きでした。

 前述の通り、私は李蹈天にはもう帰るべきところはないと思っています。だからこそ、栴檀皇女の言葉はとても残酷で、それでいて優しくて、千穐楽ではそれを受けた李蹈天が寂寞とした荒野に佇んでいるような悲しさを湛えていて、思わず泣きそうになりました。

 

 李蹈天と小むつが対になるものとして描かれているということは先にも述べましたが、栴檀皇女も同様だと思います。というのも、この三人は「故郷を追われ」「復讐のために剣を取り」(その剣術は元は老一官から受け継いできたものであり)「自分に復讐をしようとしている(していた)」からです。小むつは和藤内に、栴檀皇女は小むつによってある種の救いを得ましたが、李蹈天の救いとなるはずであった鄭芝龍は明を追放されてしまいました。そのため李蹈天には復讐を止める人も守るべき相手もおらず、自分に復讐するべく、一人で事を起こすに至ったのではないかな、と私は思っています。

 

 これはどちらかというとトラザさんの癖なのかな……、とも思うのですが、李蹈天は誰かと話す際に笑顔を作ってから向き合うのがとても印象的でした。あれはきっと本心を見せたくないのだと思います。李蹈天は笑顔を向けることで警戒を解きつつ、二心を悟らさないようにしたかったのだと思いました。

 

 これは李蹈天の好きなところですが、李蹈天は常に韃靼王との距離を測っていたところが良かったです。李蹈天と韃靼王が会話をするシーンは何度か描かれています。その度に一歩踏み出しては近付くなと制されていた李蹈天は、韃靼王が許す距離を確認しながら重用するよう仕向けていたのだと思いました。

 梅勒が死んでなお距離を縮めることを許されなかった李蹈天が、韃靼王に助けを求められた瞬間の「ついに来た」というような目が好きでした。

 

 立ち回りもたくさん拝見できて嬉しかったです! 特に思宋烈の最期は、仕えた皇帝を足蹴にする冷淡さに、成し遂げなければならない自分の復讐の意志の強さが見えて好きでした。被っていた帽子を捨てるのも、思宗烈や明への感情を断ち切るために必要な区切りだったのではないかと思います。

 韃靼王を殺すところは、千穐楽に真正面で観ることができて嬉しかったです。剣が二つに分かれるのも本当に格好良くて、それを振り回すとお衣装が風をはらんでとても美しく残酷なように見えました。

 韃靼が明を攻めるシーンではトラザさんお得意の(?)背後から無感情に刺殺するところが見られて、あの無感情さが大好きなおたくは大喜びしました。

 

韃靼王/三隅一輝さん

 前回30-DELUX NAGOYAさんのお芝居を観たのは『ナナシ2021』。あの時と同じ桃色を纏っていましたが、今回の三隅さんは打って変わって悪役でした。

 

 韃靼王は哀れな人でした。偉大な父親の影に押し潰されそうになっていて、父より偉大であることを証明したくて仕方がなくて、武力で他国を侵略するしかない人。李蹈天に「御父上と同じような人」と称されているので、きっと韃靼王の父親も同様にその偉大な父親の重圧を押し退けたくて李蹈天の故郷である集落を侵略したのだろうな……。

 

 梅勒以外を傍に置かなかった警戒心の高さは、韃靼王が自ら父親を打ち倒したからではないかと思います。父親を超えたことを精神的な頼りとしていたのも、それが唯一の成功体験だったからなのかも。

 

 それにしても、ラストの李蹈天に刺されて事切れるところ、本当に良かった……! 裏切られたと分かって、それでも一矢報いようと武器を拾う韃靼王の気概が好きでした。

 

 

梅勒/平野泰新さん

 梅勒は韃靼王に唯一傍を許されていたのが興味深い役どころでした。

 先代の王についてコメントを差し控えていたため梅勒は先王の時代から仕えていたのではないかと思っているのですが、先王に反発する韃靼王が先王時代の忠臣を重用すると思えないため、どうやって傍に置かれるようになったのか、一つ物語を作れそうでとても気になります。

 韃靼王も若い王なので、梅勒は韃靼王が幼い頃から韃靼王に付けられた家臣だったりしたのかな……。

 

 梅勒はあくまで韃靼の忠臣であり、明を侵略する者でした。だからこそなのか、「戦」とは何たるかを最も理解していたように思います。梅勒の言葉を受けて和藤内らが自分の理想とする平和と実際にしている戦争のギャップに悩むことになるのがとても面白くて、梅勒というキャラクタが効いていたと思いました。

 

 平野さんがアクロバットをなさっているところは初めて拝見したのですが、とても軽やかで、初日のOPで今のは平野さん……!? と衝撃を受けました。

 あと髪飾りがちゃんと梅の花を模していてとても可愛かったです……!

 

 

晴太/岡大和さん

 実はカラフルダイヤモンドで一番好きなのが岡さんなのですが、お芝居を拝見するのは初めて。

 

 晴太(とその兄弟)は、唯一日常に生きる人たち。天下泰平の徳川の世で、変わらず和藤内や小むつのことを待っていてくれる晴太の存在は観ている側にとっても救いだったように感じます。

 

 晴太には兄弟を守るという思いがあり剣術を学び始めたのだろうと思うのですが、兄弟が大きくなっても稽古を続けていたのは、そこに小むつがいたからなのではないかと思います。

 晴太は和藤内が明へ渡った後も八年という長い年月を小むつと共に過ごしています。その間思いを寄せる相手であるにも係わらずそっと見守っていた晴太は本当に良い男だと思いました。

 和藤内は一目惚れでしたが、晴太は少しづつ惹かれていったのだろうな……。小むつの幸せを祝福して去っていった晴太がこの後自身の幸せに巡り会えていることを願います。

 

 

錦祥女/杉山愛佳さん・ 渚/小嶋彩子さん

 錦祥女は両親と早くに別れることになりたくさん苦労をしてきたのだと思います。そんな錦祥女がどうやって甘輝の妻になったのか、描かれていない物語に思いを馳せてしまいます。呉三桂とか絡んできそう……。

 

 そんな苦労をしてきた錦祥女にとって、渚に出会えたことは幸運だったと思います。錦祥女は肉親がいない環境で育ってきたものの、実際には老一官は生きており、実母ではないものの実の娘のように扱ってくれる渚に出会い、異母弟もあり、夫である甘輝は錦祥女のことを愛していました。それが錦祥女にちゃんと伝わっているからこその結末で好きでした。

 甘輝と錦祥女って絶対に恋愛結婚だと思います。明を追われた男の娘に政治的な利用価値はないはずなので……。

 

 渚は和藤内の持つ優しさと同様として描かれていました。「困っている人を助ける」という渚の教えは和藤内にしっかりと受け継がれていて、だからこそ渚が錦祥女を追う形で命を落とした後も和藤内は自分のやるべきことを見失わずにいられたのではないかと思いました。

 

 

呉三桂/村井雅和さん・ 太子/神谷脩介さん

 呉三桂は正に忠臣でした。華清夫人が韃靼の手に落ちずに済んだのも、太子が八年もの年月を生き延びたのも、呉三桂あってのことでした。

 呉三桂は鄭芝龍を指して忠臣だと言っていましたが、どちらかというと呉三桂の方が忠臣ではないかと思います。

 

 そんな呉三桂と共にあったからこそ、太子も実の親子のように、そして年相応の子供として育つことができたのだと思います。

 

 それはそうと、村井さんと神谷さんの親子関係、六月にも『シンの明星』で拝見していて懐かしさを感じました。トラザさんの後ろ姿といい、どことなく六月を思い出す公演で面白かったです。

 

 

思宗烈/田中精さん・ 華清夫人/斎藤美七海さん

 思宋烈は暗君です。小煩いからと忠臣である鄭芝龍を遠ざけ、呉三桂の話も聞かず、聞こえの良い言葉ばかり並べ立てる奸臣の李蹈天を信じます。

 それでも、自分が成すべきことは何かを理解し、華清夫人に未来を託す姿はとても格好良かったです!

 

 華清夫人も、あまり民のことを考えないような発言が多かったのですが、思宋烈と栴檀皇女から明の未来を託されて二手に分かれる決断をしたり、自分で腹を割く決断をしたりと国母たる素養のある女性だなと思いました。

 華清夫人、妊婦でありながらかなり動き回っておられて、『SPECTER』を思い出しました。舞台の妊婦、だいたいパワフル。

 

 個人的には日替わりのアンパンマンが大好きでした。あの日替わりネタ、すべてDVDの特典映像に入ったりしませんか?

 

 

了政大/寺田遥平さん

 了政大は本当に良い人でした。和藤内も良い人だなあと思ったのですがそれはきっと和藤内と了政大が近しい人物像だったからなのだろうな……。

 

 韃靼に生まれ武人でありながらも、国を問わず人を殺すことを躊躇う了政大、柳歌君との出会いと別れが本当に悲しかったです。

 きっと韃靼にいる間も明についてからも戦争の中でたくさん悩んでいて、太子によって明と韃靼が手を取り合って進む未来が見えて一番救われたのはもしかすると了政大だったのかもしれません。

 

 今回の殺陣は寺田さんが付けられたとのことで、何度お礼を申し上げても足りません。本当に格好良いトラザさんをたくさん見せてくださってありがとうございます……!

 

 

栴檀皇女/礒谷菜々さん・ 柳歌君/池谷優奈さん

 栴檀皇女、今作の推しです。

 初めは、栴檀皇女と柳歌君は友人なのだと思っていました。身分差はあれど、二人はかけがえのない親友なのだと。

 違和感を抱いたのは、小むつに友達だったと言われた栴檀皇女が濁すような返事をしたところでした。それが確信に変わったのは、栴檀皇女の口から「想い人」という言葉が出た瞬間で、ああそうだったのか、と納得しました。

 

 二公演目からは、栴檀皇女から柳歌君への感情を前提にして注目していたところ、柳歌君と呉三桂のやり取りを見る栴檀皇女の寂しげな様子や、李蹈天との縁談を持ちかけられて意中の男性はいないという否定の仕方など、冒頭からずっとその要素が散りばめられていてハッとしました。

 

 そんな想い人である柳歌君との別れの際に「友達」という関係性を突きつけられてしまった栴檀皇女の心中を考えると柳歌君の言葉は本当に残酷で、それでもそこで(その意思はなくとも)柳歌君に突き放されてしまったからこそ栴檀皇女は一人で逃げることができたのではないか、そこで見捨てることができてしまったからこそ栴檀皇女は自分に復讐をしたかったのではないかと感じながら二公演め以降を観ていました。

 栴檀皇女に焦点を当てると本当に辛かったのですが、そこから立ち上がって、自分の感情を明確に言語化して、人を動かすことが出来る強い女性でもあるところが大好きでした。

 

 柳歌君は呉三桂と夫婦の関係にあり、栴檀皇女に対する恋愛感情はないのですが、それがまた栴檀皇女と柳歌君の関係性の儚さを際立たせていて好きでした。

 柳歌君が呉三桂と相思相愛であるのはとても微笑ましくて、互いの強さを信頼している素敵な関係性だったので、こちらはこちらで大好きでした。

 

 
老一官/杉本明朗さん

 老一官はわりと空気が読めないという印象かあります。和藤内の意思に関係なく有事は明に渡って戦うことを強制したり、獅子ヶ城で和藤内や甘輝が愛する家族を抱き抱えているのを見て切りかかろうとしたり、梅勒を倒したものの彼の言葉に動揺する一同の元に意気揚々とやってきたりと、一人だけ温度感が違うのが目立っていてわりと苦手な人物でした。

 

 杉本さんは先月拝見した『TRASH BOX』でもトラザさん(長谷川さん)のお話にでてきていて、『TRASH BOX』があったからこそ老一官と李蹈天の師弟関係に多くの意味が乗ったような気がして、今まで拝見してきたさまざまな公演がここに繋がっているのだなあとしみじみ実感しました。

 

 

虎/清水順二さん

 「虎」という役名を見た時、「虎」という名の人なのか本物の虎なのか分からなかったのですが、この虎は実体も伴いつつ、勇敢さの象徴としての半分概念のような存在だったように思います。

 和藤内の中に眠る明の血を呼び覚ました虎はその後度々和藤内の前に現れ、的確な助言を与えてくれていたので、ひょっとすると明の守り神のような存在だったりしたのかもしれないな……。

 

 

アンサンブル

 晴太の弟たちであったり、各国の兵であったり、民草であったり、さまざまなお衣装に身を包んで『国性爺合戦』の世界を彩っておられたアンサンブルの皆様は、今年拝見した方が多くおられて何だかとても嬉しかったです! 私は日々推しを追いかけているだけのおたくなのですが、その結果こうしてたくさんの方を拝見することができていて、これもご縁なのだなあと柄にもないことを思いました。

 

 南京に住むことになった心優しい韃靼の民たちが太子の治める新しい明で幸せに暮らすことができていたらいいな……。

 

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 『国性爺合戦〜虎が目覚めし刻〜』、たった四公演しかないことがもったいない素敵な作品でした! 2024年、トラザさんを追いかけてさまざまな作品を拝見したのですが、その一つひとつが積み重なってこの作品に辿り着いたような感覚があって、一年の締めくくりにはぴったりだったと思います。

 と言いながらも、年末までまだまだ現場が積み重なっているため、一つひとつ全力で楽しみます! 『国性爺合戦』、ありがとうございました!