静心なくお金飛ぶらむ

オタクの現場備忘録。内容と語彙がない。

親譲りの無鉄砲 2023.4.8-2023.4.9

4/8 明治芸能祭 舞台『坊っちゃん』昼公演@呉服座

4/9 明治芸能祭 舞台『坊っちゃん』夜公演@呉服座

 

 

 待ちに待った週末! 夏目漱石の名作、『坊っちゃん』の舞台公演のため、明治村に行ってきました。

 何分このおたく、2021年の秋に突然近代文学にはまり、以来ほぼ毎日何かしらの本を持ち歩いるにんげんで、「坊っちゃん」も既に二、三度読んでいるわけです。そんな作品に、明治偉人隊の皆様と、トラザさん(名古屋虎三郎さん)と、ふくちゃんさん(福田勝明さん)という好きな顔ぶれが揃っていて、行かないわけがないのですよね。お一人様一日一公演とのことで、複数回観たいこのおたく、二日連続で犬山に足を運びました。

 

 意気揚々とたどり着いた初日はなんと桝席の最前列に入れました。上手から二つ目の桝で、適度に全体が見やすいお席でハッピーでした! 二日目は花道が観たくて下手側の桝席に。二回とも観たいところで観ることができて、トラザさんに「良いところに座れますように」と言っていただいたおかげかもしれないな~と思いました。感謝です。

 

 前説は美七海さん(斎藤美七海さん)。出で立ちが既に清で、早速わくわくしました。須磨子様松井須磨子様)とあみちゃん(小宮山杏美さん)による呉服座クイズもあって嬉しかったです。呉服座は地元北摂の建物なだけあり親近感があるので、こうして明治村で使用されていることに頬が緩みます。OPの三人娘の歌も楽しかったです!

 「坊っちゃん」は小学生の頃好んで読んでいた本『ちびまる子ちゃんの音読暗誦教室』に冒頭が載っていて、「親譲りの無鉄砲で」~「と囃したからである。」までまるっと覚えたことがあるので、冒頭から一言ひとこと楽しく観ることができました。漱石の文章は口に出したときのリズムが心地良いものが多いので、やっぱり欠かせない一文だな、と思いました。

 

 基本的には原作の「坊っちゃん」をわりと丁寧になぞっていた今回の舞台。一番の改変は、うらなりくんが出てこないことだと思います。だって、「坊っちゃん」にうらなりくんは欠かせない存在だと思うんです。赤シャツの陰湿さって、うらなりくんからマドンナを奪うところがないと弱いと思います。だから、配役が発表されて、「うらなりがいない!?」と驚いたのですが、なんとうらなりくんは諭吉先生福澤諭吉先生)演じる山嵐に吸収されていました……! 初回は山嵐が「愛する女性も~」(うろ覚えです)と言っていたところで何も気が付けず、坊っちゃんの泊まっている宿の女将がマドンナと元々婚約していた人の話をしたところで「堀田」と言った瞬間に、「なるほど!!」と膝を打ちそうになりました。マドンナの話題になったところで赤シャツの非道が暴露されることは分かっていて、でも古賀くん(うらなりの本名です)はいないし……と思っていたらまさかの山嵐でした。原作では山嵐坊っちゃんに下宿を斡旋したことがきっかけで仲違いしていたのですが、そのエピソードがなくなった分、気弱なうらなりと豪胆な山嵐がうまく融合したなと思いました。

 しかも山嵐、うらなりくんだけでなくてちゃんと諭吉先生らしさも混じっていたんですよね! 突然小難しいことを言い出したり「はい、健康!」と蟹ポーズをしたりというのは、もちろん原作にはありません。ついでに言うと山嵐が目に優しいのは諭吉先生だからだと思います。諭吉先生による突然の講義、とっても楽しかったです。

 

 前説でも触れられていた坊っちゃんの「真っ直ぐなご気性」、清が「銭を投げるかも」と案内していて、もしかして机の境界にずっと置かれていた氷水の代金かな? と思い出せたところ、ちょっと自分を褒めました。原作ではどちらも受け取らずに放置されていた銭、舞台では豪快に投げていた坊っちゃんが可愛かったです。

 清は、初日には気が付けなかったのですが、一通目の坊っちゃんからの手紙が届いたあと、捌ける時に咳をしていて、そこからお返事を書くのに時間が掛かってしまったところに繋がるのだなと衝撃でした。

 あと清からのべらぼうに長い手紙を見た瞬間、太宰治佐藤春夫に宛てて出した4mの手紙の存在を思い出して笑ってしまいました。あれはずるいです。

 坊っちゃんと清、坊っちゃんは竹を割ったように真っ直ぐなご気性だ、と言われていましたが、清もなかなか真っ直ぐで強気なところもあって、相性の良い二人なのではないかな、と、今回の舞台を観て思いました。ただ、東京に帰った坊っちゃんの「時間はいくらでもある」(うろ覚え)という台詞は、「はじめての繭期2023」を終えたばかりの繭期には直撃してしまう台詞で、別の方向から涙腺を刺激されてしまいました。

 ラストの台詞、「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」は、原作そのままで、とても良い締めくくりの文章だなと思っていたため、坊っちゃんによるこの台詞で終わってとても綺麗でした。冒頭も一文丸ごと使用していたから、より一層綺美しい構造だったなと思いました!

 

 ふくちゃんさんのお芝居は2月の『ピーポウ』ぶり。こんなに近々でまた観られたのがとても嬉しかったです! 狸は基本的に赤シャツに言い返せない日和ったところがある人物像だったと思うのですが、蝗事件の采配でしっかり双方の意見の折衷案を通せたところがとても格好良くて、「狸ってこんなに格好良かったっけ!?」と驚きました。該当シーンを読み返してみます。

 ふくちゃんさんは他にもモブ的に学生や宿屋の主人も演じていて、それもまた良かったです。学生はおにぎりを片手にしていてゆるキャラ的可愛さがある一方、蝗事件では小狡い面を見せていて好きでした。宿屋の主人は清から手紙が届いたところで涙ぐんでからの切り替えで笑ってしまったし、ラストの赤シャツと野だいこに跨るところは足が長い……! と思いました。股下に人間二人って入るんですね……。

 

 廉太郎さん滝廉太郎さん)演じる赤シャツとトラザさん演じる野だいこは、原作を読んでいた時は「何なんだ!」と憤慨していたのですが、実際に実体を得たところを観るとすっかり愛おしくなってしまいました。

 廉太郎さんの赤シャツ、インテリで線が細くて、ついでに赤シャツがとてもよく似合っていて凄い……と思いました。廉太郎さん、もしかして何でもできるんですか?

 野だいこは、「~でげす」という変な語尾を巧みに使っていてとても面白かったです。メイクや表情は割と『YAJIKITA』での喜多さんに近かったと思うのですが、打って変わってしっかり悪役で嬉しかったです。

 ラストの成敗されるシーンはかなり改変されていた気がするのですが、その分アクションが多くて、トラザさんの良いところがたくさん観られたなと思いました。あの場面、「ハンガリー舞曲第5番」に合わせて張り手が飛ぶ上、テンポが落ちるところで赤シャツがスローモーションで回転していて、とても格好良かったです! 野だいこの補佐も凄かったなと思いました。個人的に「ハンガリー舞曲第5番」はピアノを習っていた頃に発表会で弾いた曲でかなり好きなので、それに合わせて推しのアクションが見られると思わず大歓喜でした。

 モブ学生になるトラザさんは一人お着物も羽織っているままで、半野だいこ、半学生といった雰囲気が面白かったです。悪口黒板のシーンの演出、とても好きでした!

 

 余談ですが、ラストの成敗シーンでまさか坊っちゃん山嵐が芸者に化けると思わず、出てきた途端笑ってしまいました。ブロマイドセットにお写真が残っていて本当に嬉しかったです! 千穐楽では芸者の打掛を脱いだ山嵐が勢い余って中に着ていたお着物まではだけてしまって、とても格好良かったのですが、いそいそと直していてちょっと面白かったです。

 須磨子様と郁美さん(小宮山郁美さん)の芸者姿もとてもお綺麗で、舞が観られて良かったです!

 

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 今回の『坊っちゃん』は再演とのことで、初演再演があったなら三再演も是非やってほしいなと思いました! と、同時に、トラザさんがもっといろんな近代文学の世界で生きているところも観てみたいという欲が出てしまったので、私はやっぱり織田作之助の「猿飛佐助」で猿飛佐助か石川五右衛門を演じる世界線を諦めません。絶対に観たい。あと江戸川乱歩の「人間椅子」の朗読もまだ諦めていません。

 

 明治村は3月末にも訪れていたけれど、今回も美味しいものが食べられて幸せでした! カレーパンとコロツケを食べ損ねてしまったので、次こそは食べたいところです。また近いうちに来たいな~!