静心なくお金飛ぶらむ

オタクの現場備忘録。内容と語彙がない。

文劇6 2023.2.17-2023.2.19

2/17 舞台『文豪とアルケミスト -戯作者ノ奏鳴曲-』@品川ステラボール

2/18 舞台『文豪とアルケミスト -戯作者ノ奏鳴曲-』昼公演@品川ステラボール

2/19 舞台『文豪とアルケミスト -戯作者ノ奏鳴曲-』夜公演@品川ステラボール

 

 

 2019年の3月、京都で文劇1を観劇してから4年。2021年の10月、突然文アルにハマってから1年。どうやら陳内将さんが織田作之助役で主演を務める世界に流れ着いたようです。

 文劇1の前後から名古屋に通うようになり、メイン現場を名古屋に移し、最近はほとんど2.5次元にも陳内さんの現場にも足を運ぶ機会がめっきり減っていましたが、ここで全力を出さなければいつ全力を出すのか、と思い、東京に行ってきました。名古屋の推し、名古屋虎三郎さんの東京でのお仕事が同じ期間だったことも運命のように感じます。

 

※この記事には最新作を含む舞台『文豪とアルケミスト』シリーズのネタバレがあります。

※ほとんど織田定点カメラの感想です。

 

 

 まずストーリー面から。

 私は元々織田の再登場を待ち望んでいたものの、主役ではないだろうと思っていました。織田の持つ物語は「無頼派」という括りによるところが大きいし、無頼派の物語は第一作目に終わっていると思っていたからです。それなのに、出演文豪が発表されてみると太宰を除く無頼派の面々が揃っている。プロレタリア文学もいる。草野心平北原白秋は潤滑剤かな、と初日の幕が上がるまでは考えていました。

 幕が上がってみると、織田は頼りなくて情けなくて堕落してばかりで、本当に私の知っている織田作之助なのかしら、と思いました。織田はもっと生き急いでいる印象があって、太宰がいないだけでここまで腑抜けてしまうものなのか? と。しかし、文劇6の織田作之助は転生したばかりで潜書のこともよく知らず、生前の知り合いは坂口だけ。それなのに「無頼派」の中心人物である太宰治がいない。生前の織田は太宰が入水をする前に亡くなっているため、太宰が存在しない世界を知らないけれど、文劇6の世界に転生した「織田作之助」の構成要素に太宰との関係性も多分に含まれているのであれば、太宰がいない世界は自分の何か根幹が欠けているような感覚で焦燥感があるのではないかと思いました。

 それなのに、生前親交のなかった檀は真っ当で周りからの評価も高く、自分が探している太宰にも頼られるほど。織田の「頼ってほしかった」という言葉がありますが、あの織田はきっと、生前限界まで張り詰めて文学を生み出していたから、周りから頼られることに慣れていないんだと思います。その頼られることに慣れていない様子は、「不良少年とキリスト」が侵蝕されて坂口が倒れても人を呼ぶことしかできないところにも表れているのではないかなと思いました。

 だからこそ檀への疑念を北原に植えつけられると修正できなくなってしまって、檀のことを「信じているつもり」だと言いながら一向に信じられず、坂口が檀を頼ると裏切られたような気持ちになってしまう。坂口の「檀、肩貸してくれ」「じゃあな」という台詞で二段階にショックを受けている織田の表情が辛かったです。その後口元が笑っているところは、織田の「道化」の部分が出ていたのではないかなと思いました。

 一方檀は檀で、太宰との繋がりありきで構成されていて、太宰がいなければただの根無し草。織田に「無頼派」であることを認められていない檀は、太宰との繋がりに固執するしかなくて、「青春の逆説」に潜書したのも太宰ありきの理由になっていたのかなと思いました。それが、坂口との交流の中で織田作之助の話を聞いたことを思い出して、根無し草のままでも自分の意志で織田の作品を守ろうと決意したところを、覚醒して檀を受け入れた織田に迎え入れられる。今回主演である織田の次に名前があったのが檀で、どうしてなのかと思っていたのですが、織田と対になって自分の居場所を見つける存在だったからなのだと感じました。

 

 今回キーパーソンとなっていた北原は、「国家のようなもの」に姿を奪われていたものの、空白の世界で彷徨える文豪の魂を導く役目を担っていて、実は本当にキリストなのではないかと感じました。織田と坂口が向かった世界が1作目の世界であればいいなと思います。

 

 さて、ここからは観劇中に浮かんだ感想をひたすら再構成したものです。量が多いため、箇条書きです。

〇アバン

無頼派について

 最初に文学史の本を読みながら登場する織田が、最前列の中央に向かって語り掛けるシーンが好きです。あの瞬間はまだ織田の一人芝居でだからこそメタな外側の存在を認識している構造がとても良いなと思いました。偶然その近くに入れたため、しっかり目を見ることができて幸せでした。

・織田の喋り方

 「~なんよ」という言い方が多くて可愛いなと思いました。また、「ちゃんと見つけてきてくれ~な~!」の言い方がナゴヤ座でよく聞く節回しでつい笑ってしまいます。

・OPの織田の獰猛な舌なめずり

 これは初日に間違いなくあったはずなのに2日目から観られていないもの。とても格好良かったので絶対また観たいです。あと初日は特にOPのダンスで三つ編みが大暴れしていた気がします。あれも元気で大好きです。

・草野のカエルに優しい織田

 織田がカエルと目線を合わせてあげているところがとても可愛くて好きです。後半で侵蝕者に操られている文豪たちをカエルが助けますが、織田へのカエルの恩返しだったら良いな、と思いました。

・堕落にかて~

 「堕落にかてそれなりに意味があるんやで、なあ安吾?」という台詞が大好きです。この台詞が後々堕落の底で響いてくるような気がするし、坂口が輝くように感じます。

 

蟹工船

蟹工船

 恥ずかしながら「蟹工船」の発音を初めて知りました。

・モーション

 「蟹工船」に潜書した4人が揺れに耐え切れず前後左右にふらふらするところ、本当に揺れているように見えたのが凄かったです。また、徳永を助けるため檀が海に飛び込むのも、本当にちゃんと海に見えてぞっとしました。

・酒盛り

 小坂さんの負傷のため演出が変更となり、元々は坂口が持って出てきていた酒瓶を織田が持ってくるようになりました。そのため、手酌でお酒を飲む織田を観ることができて少し嬉しかったです。

走れメロス事件

 織田・坂口・檀の三人が上手で会話をしているシーンでガスの元栓を捻っていて、それは太宰と檀の心中未遂の話では……? と思いました。途中で織田が外側を向いてしまうのは疎外感を感じたからなのでしょうか。

・白秋登場

 北原が登場する場面にアンサンブルが出てくるのは、ただ過去作のモチーフとして他の文豪の影を出しているのかと思っていたのですが、もしかすると侵蝕者であるということも表しているのかな? と思いました。

・最後の晩餐

 1回目の最後の晩餐では北原がキリストなのに2回目の最後の晩餐ではユダになっているところ、大好きです。1回目の最後の晩餐はユダが侵蝕者だったような気がしています。あとここ、織田がそっと北原のカレーを盗み食いしようとしているのが好きです。初日は一度膝の上に持ってきてから急いで食べて喉を詰めていたのが可愛かったです。

 

〇不良少年とキリスト

・キリスト磔刑

 織田が「不良少年とキリスト」の中で磔にされてしまうのが好きです。もしかしてあの場面から後の坂口の「キリストに見えるぜ」と言う台詞へ繋がっているのかなと思いました。

・太宰の入水

 太宰が入水した話を坂口がしているところで上から落ちてくる太宰の羽織がとても綺麗で、とても印象に残っています。ふわ、と落ち始めてばさ、と落ちる緩急が素敵でした。

・偽太宰

 「太宰治」も「織田作之助」も道化を演じていたという印象は、実は私も元々持っていました。それが侵蝕された本の中で聞こえてきた偽物の太宰の声に見透かされた気になった織田が、つい偽物と頭では分かりながら縋ってしまう様子がとても苦しかったです。

 また、その後織田が悪夢の中で今度は自分自身が太宰の羽織を着せられて偽物になってしまう流れがとても良かったです。

 

〇青春の逆説

・裏切者

 織田が口走った裏切者の話で、もしかして檀が? と皆が思っていたと思うのですが、その中で「先に行っていてほしい」と檀に言われて、「分かったばい!」と受け入れることができる徳永の真っ直ぐさがとても太陽のようでした。名は体を表すというのは本当かもしれないなと思いました。

・武器種:椅子

3作目から定期的に登場する武器、椅子。今回は室生がいないにも関わらず椅子で戦う坂口と織田が観られたのが嬉しかったです。

・元気マシマシドリンク

 最初に元気マシマシドリンクを飲むところの織田が、飲んだ後の容器を軽く投げ捨てているところが好きです。二回目の元気マシマシドリンクは、トリップ度合いをよく見せるためか、毎回少し液体を飲み零している様子ですが、初日の零し方が一番盛大で好きでした。

 幻覚の中でバールパンに行く織田、史実ではコーヒーを飲んでいたはずですが、幻覚の中ではお酒を飲んでいるのは徹夜して原稿を書かなくても良いからなのでしょうか。 

 幻覚の世界にいる織田が北原に狙われるのを助けた坂口がいったい何を投げたのだろう? と気になっていて、2公演目で確認したところ、近くのアンサンブルが持ってたお盆にあったカトラリーでした。いわゆる乱定剣ですよね。さすが忍者になりたかった坂口なだけあるな、と思いました。私の脳内で反橋さんが良い声で「ら~んじょうけ~ん」と囁くのは秘密です。

 あのドリンク、本当に普段織田が使っていたものなのかは怪しいところだなと思います。

・堕落の底

 堕ちて堕ちて堕ち切ったところで、織田が首を吊ろうとするシーンが毎公演ぞっとします。初日は紐に首を掛けるか掛けないかくらいだったのが、どんどんしっかり首を吊るようになっていて、とても不安なのですが、坂口が声を掛けることで戻って来れるのが良かったなと思います。

堕落論

 文劇おなじみの群読シーン。今回は坂口の「堕落論」を読み上げるところで、著者である坂口は本を手にせず諳んじているところがとても格好良くて好きです。初日はどうしてここで客席の電気をつけるのだろう? と思っていたのですが、2公演めでようやく「日の当たらないところに光を当てている」ことに気が付いて、嬉しかったです。私自身「どうしようもない」人間である自覚があるし、正道な純文学ではきっとちっとも響かなくても、無頼派の文学に助けられているところは確かにあるので、それが照明で表現されていたのがとても良いなと思いました。

・キリスト

 陳内さん演じる織田を「キリストに見えるぜ」と評されて、私の中の繭期が悪化しました。陳内さんをキリストにしたら、それはもうクラウスだと思います。

三羽烏アタック

 中心人物がいないことで内輪で揉めていた無頼派が、あの時織田を中心として三羽烏アタックを成功させる展開、とても素敵だったし、あの時本当に織田作之助が主役になったんじゃないかなと思いました。

・織田と坂口の死

 坂口安吾の命日に初日を重ねて、そこで坂口を絶筆させる演出がとても好きです。この日程を組んだ時の吉谷さんの顔が見てみたいです。

〇ED

・ラストシーン

 ラストシーンで檀に返事をするのは草野ですが、檀の目線はしっかり織田に向かっているところが大好きです。あのシーン、織田と坂口は違う場所にいるため視線は本来交わらないし、織田は檀に直接返事をするわけではないけれど、檀がしっかり織田を見据えているのが彼の直感の強さだと思うし、織田と無頼派の仲間になることができた檀なのだと思います。

 

〇セット

・不良青春の蟹キリ/少年と逆説スト船

 舞台セットに取り付けられた今作で侵蝕される作品のタイトルが左右に分けられているせいで「青春の蟹」と読めてしまうところ、とても好きです。また、それぞれの作品名をスポットライトで照らして読めるようにする演出はシンプルに発想が凄いと思いました。

 今回も可動式ではないステージセットでしたが、重厚感があって好きです。

 

〇殺陣

中野重治

 中野の殺陣、初日は頑張れ……! と思うところが何箇所かあったものの、2日目、3日目とどんどん良くなっていて努力と本番での修正力が凄まじいなと思いました。

北原白秋

 北原の回転納刀があまりにも美しくて毎公演注目してしまいます。銃と日本刀を両方同時に扱うのは本当に火力が強くて楽しくなります。

檀一雄

 檀の武器は大刀で斬馬刀に近しいものだと思います。かなり赤澤さんは小柄なので振り回すのも難しかろうと思うのですが、とても動きが格好良くて当初思っていたより安心して観られています!

草野心平

 草野はカエルのパペットも武器の一つとして攻撃をしているのが新鮮でした。鞄に下げたランタンが邪魔そうですが、まったく違和感なく動いているのが凄いなと思いました。また、草野を耗弱させる侵蝕者が中原中也であるところ、とても性格が悪くて好きです。

織田作之助

 織田の大立ち回りはまさか観られると思っていなかったため、初日はその存在に鳴いてしまいました。織田の殺陣のスピード感は織田の人生にも似ていて、陳内さんが織田を演じていることがとても嬉しくなりました。足癖の悪さは、三津谷亮さん演じる骨喰藤四郎を思い出してしまって少し面白かったです。あと、織田に斬られて背落ちをするアンサンブルの方がとても良いです。織田はスタミナの無さも一作目の頃よりしっかりと描かれているのもいいなと思いました。

 

〇その他

・客降り演出

 開演前のアナウンスでもしかして? と思ったのですが、案の定通路演出があって嬉しかったです。目の前をよたよたよろけながら歩いていく織田は本当に出口の見えない闇の中を彷徨っているようでした。最前列はもう一公演持っているので、もっとしっかり観察したいところです。

北原白秋

 カリスマ的存在である北原の姿を使う「国家のようなもの」、本当に知恵が働いて素晴らしいと思いました。北原は余りにも権威があって、それこそキリストのように皆が信じてしまうことを館長は3作目で学んだのだろうと思います。

 ラストの本物の北原は、ひょっとすると弟子たちも新たな世界へ導いたのでしょうか。私は3~6の先に1、2の世界があると考えているので、もしわざわざ北原が室生と萩原をばらばらにしてでも室生を5に送り出したのだとしたら、芥川が成長する手助けをしたのかもしれないなと思いました。また「この道」の使い方がとても優しくて温かくて、あの曲が大好きになりました。

・徳永直

 反橋さんを生で観たのがとても久しぶりだったのですっかり感覚を忘れてしまっていたのですが、反橋さんってとっても格好良い方でした……。熊本弁はネイティブが近くにいるとはいえ、かなり難しかろうと思うのですが、他方言話者からするとまったく違和感がなく、凄いなと思いました。九州の方の感想を是非とも聞いてみたいです。

・A席

 ステラボールのA席は絶対に入らない方がいいです。約束。

 

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 正直まだまだ咀嚼したりない文劇6ですが、私の文劇6は一旦休演。次は織田作之助のホームタウン、大阪公演で彼の生き様を見届けようと思います!